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残雪の立山は外国人観光客のワンダーランド

富山滞在3日目、朝8時過ぎの富山地方鉄道(地鉄)で立山に向かう。2両編成の電車は立ち客が出るほど混んでいる。台湾や中国、韓国からの観光客が多い。水が張られた田んぼ、黄金色に輝く麦畑、立山連峰から流れ出る常願寺川の渓谷美などローカル線の風情を味わうこと1時間。終点の立山駅で降り、今度はケーブルカーで美女平へ。わずか7分の空中散歩だ。その次は高原バス。電車、ケーブルカー、バスを乗り継いで室堂に着いたのは10時半だった。

この日も天気は快晴。バスから降りた観光客らは、みな同じ方向を目指す。道路沿いにそびえ立つ雪の壁で有名な「雪の大谷」を見物に行こうとしているのだ。その波のなかに入り、ブラブラと歩いていく。バスで来た車道を戻ると、すぐに雪の壁があらわれた。蒼い空の下に白い壁がどこまでも続く。壁の向こうには雪山の斜面。あちこちでアジア観光客が記念撮影をしている。雪を見たことのない人も多いのだろう、子供だけでなく大人たちも嬉しそうだ。

今年は例年よりも雪が少なく、最高地点でも壁の高さは10メートル。

「これじゃ、雪の大谷じゃなくて小谷だなぁ」。

そんな声も出ていた。とはいえ、テレビニュースでしか見たことのなかった光景を間近に見ることができ、まずは満足である。

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トレッキング中、雷鳥が目の前を――

ターミナルに戻り、ひと休み。目の前に雪原が広がり、雄山、大汝山、富士ノ折立の立山連峰の雄姿が迫る。いい光景だ。雪原では観光客が小さな雪だるまを作り、雪と戯れている。5月中旬、気温は15度ぐらいか。日差しが強いので暑いくらいだ。靴のひもを締め直して、みくりが池を半周して今日の宿「みくりが池温泉」に向かう。キャタピラーの跡をなぞるように雪原を横切っていく。雪は軟らかめでスポッと靴が入り込む。小さな斜面を下ってから登り返し、遊歩道に出る。整備された遊歩道には雪はない。残雪の山、青白く凍結したみくりが池を眺めながら、のんびりとトレッキングを楽しむ。

目的地の近くまで来たときだった。一羽のオスの雷鳥が突然、遊歩道沿いに姿を見せた。白地に焦げ茶色の羽、赤い肉冠、小さな目が愛らしい。ぴょんぴょんと歩いていたかと思うと、ちょこっと飛び立って柱の上に陣取り、あたりをうかがっている。近くで雷鳥観察をしていた人に尋ねると、近くのハイマツの下に巣があり、このあたりを縄張りにしている個体だという。

「この鳥は結構強くて、縄張りも広いですよ。去年、つがいのメスが卵を産み幼鳥になったけど、途中から見かけなくなっちゃった。オコジョ(イタチの仲間)にやられちゃったのかなぁ」

この男性、岐阜県に在住で、年間40回以上この地に足を運び、雷鳥の生態を撮影しているという。

「プロのカメラマンですか」と聞くと

「ただの道楽ですよ」と照れ笑いされる。

立山と雷鳥には、人を惹き付ける魅力があるんだなぁ。

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「日本一高所 雲上の温泉」に浸かり身体を癒す

宿に早めにチェックインする。入り口には「日本一高所 雲上の温泉 みくりが池温泉」の看板がかかっている。フロントに向かうとヨーロッパからのハイカー4人組が温泉に入れるかどうか尋ねていた。応対しているのは20代の若者。海外の山をこなしてきたのだろうか、流暢な英語での対応にハイカーたちも満足げだ。彼らが温泉に向かった後、この青年に声をかけてみた。

「いまは山小屋もグローバルですねえ」

「ここは欧米系のお客さんが多いので、英語ができないとラチがあかないですよ」

屈託のない笑顔が帰ってきた。都会ではなかなか見かけない笑顔だ。

部屋に荷物を置き、雷鳥沢方面に出掛けてみる。遊歩道を進むと展望台に出る。左手の地獄谷は、今も硫化水素を噴出している。風に乗ってガスの臭いが鼻をつく。右手奥には山崎カール。氷河によってつくられた圏谷で、一帯では春スキーを楽しむ人の姿が見られる。あまりにもいい天気だからか、欧米系の女性ハイカーは、ベンチでつかの間の昼寝タイムを決め込んでいる。

雷鳥荘に向かう道を歩いていると、左前方のハイマツから茶色の毛におおわれた雷鳥のメスがひょっこり顔を出した。こちらの姿を見ても動じることなく、目の前をすたすたと歩いていく。まるで誘導してくれているようだ。しばらく彼女の様子を観察。日光浴を楽しむかのようにのんびりと歩き回り、やがて右手のハイマツの中に入っていった。こんな間近に特別天然記念物を観察できるのだからラッキーだ。

宿に戻り、温泉に浸かる。八ヶ岳にある本沢温泉の野天風呂も日本一の高所温泉を謳っているが、こちらは屋内。無加水無加温の白く濁る単純酸性泉で、窓からは大日連山の眺めがいい。かけ流しの雲上の温泉に浸かって身体を癒す。のんびりとした時間が過ぎていく。

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雪山に落ちる感動的な夕日。高山ならではの絶景ショーを堪能

温泉に浸かった後は、テラスで冷たいビールを飲む。火照った身体に冷えたビールが染み渡る。白銀の世界を眺めながらの絶景ビールタイムを楽しむ。アルコールが回ったせいか、眠くなってきたので部屋でひと寝する。

「山田さん、お食事できてますよ」

おっと、あまりの気持ちよさに寝過ごしてしまった。ここの夕食は午後5時半からと7時からの2部制になっている。早めに食事を済ませれば外で夕日を鑑賞できると言われ、5時半でお願いしておいたのだった。

食堂では数十人の登山者が和気あいあいと食事を楽しんでいた。席につくなり、その充実した食事内容に驚いた。この日のメニューは、次の通り。

●さくら風味の手作り豆腐
●春限定うるいのおひたし
●かつおのたたきとキスのお造り
●なつかし昭和カツレツ デミグラソースがけ
●春野菜と鯛の小鍋仕立て
●つぼ煮

さらに予約時に頼んでおいた山菜の天ぷらがついた。海の幸、山の幸がふんだんに使われ、味もいい。とても山小屋のレベルとは思えない。スタッフの人に尋ねると、北アルプスの山のようなヘリによる荷揚げが必要なく、食材の搬入も頻繁に行えることが充実の一因らしい。料理人の腕前も大きい。最近の山小屋の食事はレベルが高くなったと聞いていたが、その中でも相当ハイレベルだと思う。

食事の席の周りは相部屋の方々だった。「きょう雄山を登ってきた」という男性は72歳、町田市から車で麓までやって来たという。隣に座っていた寡黙な登山者は、なんと74歳で、一人で山歩きを楽しんでいるそうだ。高齢化社会が加速しているが、山では70代はバリバリの現役なのである。

食後、カメラを持って近くの展望台へ向かう。すでに高級一眼レフカメラを三脚に設置したシニアカメラマンでいっぱいだ。どうやら同好会の方々のようだ。10人ほどのグループで女性も混じっている。やがて日が落ち始めてきた。奥大日岳の白い稜線にオレンジの夕日が落ちていく。夕焼けが雪山を照らし、美しい。日が落ち始めてから稜線の向こうに姿を消すまでわずか数分。標高2450メートルの高地で楽しむ贅沢な絶景ショーに誰もが感激している。もう少し、見ていたい。そんな思いを抱かせながら、太陽は静かに沈んでいった。

みくりが池温泉 TEL:076-463-1441

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【愛される方言・富山弁】

富山きときと空港の売店で面白いものを発見した。富山弁の番付表である。テレビ番組等でも紹介されたことがあるからご存じの方も多いかもしれないが、富山弁は語彙が豊富で意外性がある。番付上位を見てみよう。

<東>
横綱 きのどくな(ありがとう)
大関 だら(ばか)
張出大関 また、こられ(また、いらっしゃい)
関脇 つかえん(かまわない)
小結 だいてやる(おごってやる)

<西>
横綱 きときと(生き生き)
大関 まいどはや(こんにちは)
張出大関 いとしい(かわいそう)
関脇 こーりゃく(手伝い)
小結 うしなかす(紛失する)

いかがだろうか。このほかにも「おちんちんかく」(正座する)、「みあらくもん」(自由人)なんてユニークな言葉も。富山弁での会話を聞いてみたい。

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ANA 富山きときと空港スタッフの富山自慢

環水公園にある「世界一美しいスタバ」とカップルに人気の赤い糸電話

富山地鉄サービス株式会社 航空部 富山空港営業所 旅客課
金谷 麻衣子さん(左)
吉田 佳織さん(右)

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今回はお二人に富山のおすすめスイーツを紹介していただこう。

「富山を代表する干菓子(ひがし)の老舗、小矢部市の薄氷本舗 五郎丸屋さんが銘菓・薄氷を現代風にアレンジしたT五をお薦めします。薄氷のように口の中で溶ける薄い干菓子で、五色で五つの味を楽しむことができ、見た目もきれいです。味覚の基本といわれる塩味、苦味、酸味、甘味、滋味を桜、抹茶、ゆず、和三盆、胡麻の五つの風味に重ねたもので、お土産にも最適です。あと、いろんなメーカーさんから出ていますが、白エビせんべいもおいしいですよ。塩味、黒コショウ味、柚子コショウ味、青のりわさび味など種類も豊富ですので、食べ比べていただきたいですね」

次は「世界でもっとも美しいスタバ」を紹介していただいた。

「富山駅から歩いて10分ほどのところに富山環水公園があります。その公園内にあるスターバックスは、2008年に全世界に約2万店あるスタバの中から、店舗の美しさを競うコンテストで最優秀賞に輝いたことで有名です。運河と緑に囲まれたお店は自然に溶け合っていて、桜の季節は圧巻の美しさですね。公園は夜になるとライトアップされ、感動的な光景になります。近くの天門橋の両サイドの塔の間に、長さ58メートルの赤い糸電話があり、カップルに大人気です。恋結びの糸電話ですね。富山にいらしたら、是非お立ち寄りください」

次回は立山連峰を代表する信仰の山・雄山に登頂します。いよいよ3,000メートルの世界。どんな光景が待っているか。お楽しみに。

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