子供たちの通う学校から、ときどき日本について聞かれることがあります。ファッションのこと、マンガのこと、そして食のこと。子供たちのなかには日本食を好む子、「お寿司大好き!」という子も少なくありません。
先日、娘の仲よしの友達を集めて「お弁当アトリエ」を行いました。フランスでも〝BENTO〟という言葉が使われるようになり、お弁当ボックスとアイデアブックがセットになったものが売られているのを見かけたりします。
日本からかわいいお弁当箱を取り寄せ、ネコ型のおにぎりにノリで顔をつくらせたり、卵焼き、ミニソーセージ、にんじんのきんぴら、ブロッコリー、プチトマトといった万人ウケするおかずを準備し、好きなように詰めさせたりしました。
ふと見ると、ソーセージだけを詰めている子が……。そんな野菜嫌いちゃんにも「赤や緑が入ったほうがきれいだし、楽しいよ」などと持ちかけると、最後には色とりどりで栄養バランスのよい、個性豊かなお弁当のできあがり。子供たちは自分が詰めたお弁当を、誇らしげに、「おいしい、おいしい」と言いながら残さず食べきってくれました。娘も友達に日本のお弁当を紹介でき、大満足の様子でした。
左:お弁当アトリエを開催。それぞれに個性あるネコちゃんおにぎりのできあがり。
右:お姉ちゃんたちに混じって唯一の男子である息子も挑戦。
私がパリに住み始めたころは、オペラ座界隈にあるサンタンヌ通り、通称「日本食通り」に行かないと、いわゆる本当の日本食は食べられませんでした。そこは寿司店や居酒屋、ラーメン屋さんなどがひしめく通りで、懐かしい日本の味を堪能し、その帰りに希少な日本食材店にて買い物をして帰る――それが、月に何度かの楽しみでした。
15年近くたった今、もちろん「サンタンヌ通り」は老舗から新しいお店まで、変わらず日本食をいただけるにぎわいの耐えない通りのままですが、近ごろはこの地区に限らず、パリじゅうのあちこちに日本食を楽しめるお店ができました。日本酒や豆腐、みそに至るまで、日本の味を紹介するイベントもしょっちゅう行われるようになり、「本当の味をフランス人にも知ってもらいたい」、そんなわれわれ日本人の思いが日本人の手によって少しずつ浸透しているのです。
左:「こだわりラーメン」(29 rue Mazarine, 75006 Paris)にて。レストランのテーブルを支えるのはビール瓶ケース。
右:横丁風の店内は昭和レトロな内装。こんな駄菓子屋さんがあったような、なかったような……。
数多い日本食店の中から、最近友人たちの間で噂になっているラーメン屋さんをご紹介します。店に一歩入ると、昭和の香りが漂う世界。BGMに演歌が流れ、懐かしいような、でもちょっと違うような……なんともいえない雰囲気を醸し出しています。そこはなんと、フランス人が経営するラーメン店、その名も「こだわりラーメン」。オーナーの日本好き、ラーメン好きがこうじて、装飾にまでこだわり抜いたこのお店が誕生したのだとか。日本の有名ラーメン店がパリに次々とチェーン展開していますが、ここはフランス人が日本の味を追求し、独自でオープンした個性的なお店。スープも麺も手づくりなのだそうです。
たとえるなら、日本で私たちがアコーディオン音楽の流れるトラディショナルなフレンチレストランに行くようなものでしょうか。映画のセットのような店内は、日本人とフランス人でにぎわっていました。
左:鶏ベースのスープも麺もすべて手づくりの醤油ラーメン。
右:食後のデザートには、パティスリー「朋」の抹茶どらやき。濃い抹茶クリームが入っていて超美味。
メイドイン・フランスのこだわりラーメンをいただいたら、デザートにはぜひどら焼きを。こちらの店では、最近オープンしたパティスリー「朋」の抹茶どら焼きをいただくことができます。
左:パティスリー「朋」(11 rue chabanais 75002 Paris)に並ぶ上品な和菓子。
右:大好きな上用まんじゅう。お菓子を頬張り、ほうじ茶をすすれば、海外生活の日ごろのストレスも吹っ飛ぶ。
この抹茶どら焼きが私の和菓子熱を再燃させ、翌日には和菓子を求めて走ることに。寒さが厳しくなってきた今日このごろ、暖かい店内で小さなころから大好きだった上用まんじゅうをひと口いただくと、思わず故郷・大阪を思い出し、どっぷりとノスタルジーにひたってしまいます。
パリの人々にこれら日本の味を体験してもらえること、そして、私にとって懐かしい味がパリという地でも味わえること。「幸せ」のひと言です。美食の国・フランスでどんどん日本の味が認められる――素晴らしいことですね。