私たちが目にする鉱物の由来を訪ねると、それは一夜ではとうてい語れないほどドラマティックな来歴があります。今回ご紹介するアズライトも同様な遍歴の末に地中から誕生した鉱物のひとつです。アズライトが生成された場所は鉄や銅、鉛などが生成された金属鉱床の上部、いわゆる二次鉱床といわれる地層です。その金属鉱床も、それが生成されるには、地中深くの鉱物がマグマの熱や地殻変動の圧力などによって別の鉱物へと変成した結果です。ですからここにも、長い長い時間をかけたドラマがあると言えますね。ところで、今ちょっと触れましたが、アズライトは金属鉱床の中でも銅鉱床の上部に生成されるものです。そのため、鉱物学者の中にはアズライトを「銅鉱床の上に咲く美しい紺青の石の花」と言っている人がいます。それほど色鮮やかな鉱物なのです。
では、アズライトの青は、いったいどのような色なのでしょうか。写真でもおわかりいただけるように、ラピスラズリよりももっと明るいコバルトブルーをしています。アズライト(Axurite)の語源を調べると、ペルシャ語で青色の意味をもつ「lazaward」に由来するとのこと。和名では「藍銅鉱(らんどうこう)」と言って、これも「藍(あい)色」を表しています。実はこの「藍色」はアズライトの命のようなもの。それゆえにこの石は絵画の絵の具として、その昔から使われてきました。
特に日本画の岩絵の具の群青色として、アズライトは定番の顔料。この石を砕いて粉末にしたものがニカワと混ぜて使用されています。この顔料を使った絵として歴史上有名なのは、7世紀末から8世紀初めに描かれたとされる高松塚古墳の壁画。その一部にアズライトが使われているとのことです。一方、西洋の絵画においても藍色を出すのにアズライトの絵の具を使用したようです。その証拠として、本来は青色であるべき空の色彩が、緑色になっているものがあります。これはまさにアズライトの特徴。というのは、この石は水分を含んで炭酸が抜けると、緑色に変色する性質があるのです。
ところが面白いのは、この緑色というのは、実はアズライトと組成がよく似ている「マラカイト(孔雀石)」そのものなのです。実際、両者の組成を見てみますと、アズライトは「Cu3(CO3)2(OH)2」であるのに対して、マラカイトは「Cu2CO3(OH)2」で、ほとんど同組成の鉱物です。ということは、アズライトは自然界において水分が加わり炭酸が抜けると、マラカイトに変質するということなのです。ただし、マラカイトは非常に安定した鉱物なので、マラカイトからアズライトに変質することはないようですよ。
そのようなわけで、自然界にはアズライトとマラカイトが混ざり合った石も存在します。藍色と緑色が抽象画のような模様をつくり出している、なかなか魅力的な石です。特に研磨すると素敵なため、ジェム・ストーンとして流通しています。ちなみにその石の名称は、両鉱物の英語名を合成した「アズロマラカイト(Azuromalachite)」とつけられています。
なお、アズライトのパワーストーンとしての歴史は古く、紀元前15世紀ごろのエジプト、ギリシア、マヤなどの古代文明時代にすでに祈祷や預言に活用されてきたと言われています、次回はアズライトのそんな神秘的なお話しをしましょう。