「ハーライト」と言うと、まったく馴染みのうすい鉱物名かもしれませんね。実はこの名称は、「塩」を意味するギリシア語の「hals」に由来しています。つまり、「ハーライト」とは塩の塊である「岩塩」を意味しているのです。今でこそ岩塩は食卓にも登場するようになりましたが、昔は日本人が接する機会はきわめてまれでした。と言うのは、日本では岩塩そのものが産出されないことに加え、1905年(明治38年)から1997年(平成9年)まで、「塩の専売法」という法律があったためです。塩の販売は日本政府の管理下にあって、外国の岩塩が日本国内で流通することはなかったのです。

090324 では、岩塩(ハーライト)は日本の塩とどう違うのでしょうか? 実は、岩塩も元は同じ海水なのです。私たちにとっておなじみの日本の塩は、ご存知のように海水を天日や釜で煮詰め、水分を蒸発させたものです。でも、岩塩には鉱物の世界ならではの、悠久の時によって育まれた歴史があります。それは、少なくとも数億年前のいわゆる地質時代にまでさかのぼる歴史です。人類がこの地上に登場する以前の太古に起こった大規模な地殻変動によって、それまでは海であった所が陸地になり、そこに閉じこめられた海水が干上がり、長い長い時間をかけて岩塩となったのです。

さてこの岩塩、いったいどこから産出されているのでしょうか。代表的な産地は海とはほど遠いヒマラヤやアンデス山脈、あるいはサハラ砂漠です。このことから考えても海水が岩塩となるまでは、気の遠くなるような年月を費やしたことがわかります。その自然の営みたるや、人類の歴史も歯が立たないほどの雄大さですよね。こうした悠久の時を経ているのですから、岩塩と海水から人工的に精製した塩とでは、元は同じ海水とは言うものの明らかな違いがあります。岩塩にはもともとの海水にはない地上の成分が溶け込んでいるのです。岩塩には無色や白、黄色、橙色、赤色、青色、紫色など様々な色がありますが、それは付加成分(地上の成分)の作用と、天然の放射能の影響であると言われています。

岩塩(ハーライト)の鉱物としての特徴をもう少し見てみましょう。化学成分はNaCl、すなわち塩化ナトリウムです。でも、もともとの海水には塩化ナトリウムのほかにマグネシウム、カリウム、カルシウムが含まれています。でも、どうして岩塩は塩化ナトリウムだけで、それ以外の成分が含まれていないのでしょうか。いったい、いつ消えてしまったのでしょう? 実は消えたのではなく、それは各成分の沈殿の仕方に違いがあるためです。沈殿する順番があるんですね。カルシウムが最下層、次が塩化ナトリウム、その次がカリウム、最上層がマグネシウムとなっているのです。ただし、この4成分のうち塩化ナトリウムが岩塩の約75%を占めており、いわゆる岩塩はこの塩化ナトリウムの層のみを掘り出したもの。したがって、きわめて純度の高い塩化ナトリウムの塊というわけなのです。

ところで、岩塩の硬度は低く、モース硬度2.5です。しかも空気中の湿気で自然溶解する性質がありますから、当然宝飾品に使用することはできません。でも、岩塩の塊をくり抜いた、写真のようなランプ(電気スタンド)は販売されています。私も1点所有していますが、ある日気がつくと、ランプの木製の台に溶解した岩塩の粉がたまり、ランプが置いてあった棚も、塩でザラザラになってしまいました。それ以来、このランプの下にはゴム製のマットを敷いています。ランプの塩が溶け出すのは、ちょっと困りものですが、ランプが投げかけてくれる柔らかで温かな光には、いつも心が休まる思いになるのです。

では、次回は岩塩(ハーライト)のパワーストーンとしての効用をお話ししましょう。

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