人間的にも成長させてくれた作品だったと語ってくれた中野英雄 画像を見る

「ボクの原点でもある『愛という名のもとに』を(仲野)太賀にもすすめたのですが、『親父の芝居を見ても勉強にならないから、親父が死んでから見るよ』と、はっきり断られてしまって(笑)」

 

少し残念そうに語るのは、中野英雄さん(59)。それほど中野さんにとって、大事な作品だという。

 

「当時、柳葉敏郎さんの付き人をしていた関係で『君が嘘をついた』(フジテレビ系)に出演。その打ち上げで、脚本家の野島伸司さんが『あなたみたいな、ずんぐりむっくりして、お人好しのキャラクターが登場する作品を書きたい』なんて話をしてくれたんです」

 

ところがその後、中野さんは仕事に恵まれず、役者の道をあきらめて、正式に柳葉のマネージャーになる決意をした。

 

「その数日後、社長に呼び出され、『辞めるって言っていたが、お前をイメージした役が来ている。やるか?』と聞かれました。野島さんが推薦してくれたようです。それで『最後の思い出作りとして出させてください』と頼んだのが、このドラマでした」

 

中野さん演じるチョロは、気が弱く、真面目なサラリーマン。

 

「対照的にボクは暴走族上がりで、肩で風を切って歩くタイプ。衣装も一つサイズが小さいスーツを用意してもらって、体を小さく見せるようにしていました」

 

共演者は豪華だった。

 

「主役は鈴木保奈美さん。『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)から1年後の撮影でしたので、その余韻がすごかった。ロケでは人が集まるし、ボクも『東京ラブストーリーのチョロさんですよね』とよく間違われたものです。

 

親友役の唐沢寿明くんとは、連日飲みに行き、プライベートでも親友のような付き合いでした」

 

もっとも印象に残っているのは、会社の金を横領したチョロが倉庫で自殺するシーンだろう。

 

「ほかの俳優陣は朝からロケを行っていて、ボクは湖畔の倉庫で『お前、吊られておけ』ってスタンバイ。お昼の弁当を食べるときに脚立を用意された以外は、ずっと吊るされていました」

 

いよいよ、ほかの役者陣が倉庫に到着。チョロの死体を見つけてからのシーンは、ほぼノーカット。

 

「ボクは疲れ切って、本当に死んでいるような気持ちに。親友の唐沢くんは“死んでいる”ボクを見て本気で泣いている。そして、興奮してものすごい力で胸をたたくんです。動くわけにはいかないのですが、苦しくて、苦しくて(笑)」

 

インパクトのある展開によって、ドラマは高視聴率を記録。名前が売れた中野さんは役者の仕事を継続することに。

 

「すっかり天狗になりました。本当に嫌なやつになって仕事を干されたりもしましたが、逆に勘違いに気づくことも。役者としてだけでなく、人間的にも成長させてくれた作品でした」

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