「『古畑任三郎』がスタートした当初、レギュラーの出演者は田村正和さんとボクしかおらず、毎回、豪華なゲストを迎えるという形。まず、その構成に興奮させられました。ただ、舞台出身で連ドラも『振り返れば奴がいる』くらいしか出ていなかったボクは、田村さんにとっては“誰だ、コイツ!?”とえたいの知れない存在だったはずです」
こう振り返るのは、西村まさ彦さんだ。撮影現場では、気軽に田村さんに声をかけられる雰囲気ではなかったという。
「田村さんは、現場では常に古畑任三郎になりきっていました。撮影もほとんど全てワンテイクOK。待ち時間のときは、専用の椅子に座って台本に向き合っていらっしゃるから、近づくことすらできず、ボクはかなり離れた場所でポツンとしていたんです」
第1回のゲストは中森明菜。
「歌詞の世界観を表現する方ですから、お芝居のほうも非常に上手で。ただ、中森さんにも簡単に声をかけられません。“古畑”の撮影現場は、本当に静かなんです」
毎回、定番の演出として記憶に残るのは、古畑が西村さん演じる今泉の頭をはたくシーンだ。
「台本にはなく、田村さんのアドリブだったと記憶しています。あの演出によって今泉というキャラが生かされて、ついにはスピンオフ『巡査 今泉慎太郎』が作られることにもなりました。ただし、脚本家の三谷(幸喜)さんからは『ボクの今泉は、君のやっている今泉じゃないんだけどね……』と言われたこともありました(笑)」
もっとも「しびれた」のは、撮休日に、葬式に参列するために実家の富山に帰ったときのこと。
「万が一に備え、撮影日の1日半前に富山を出発したのですが、大雪の日で、途中で高速道路が閉鎖されることに。高速を降り、車を乗り捨てて、電車を乗り継いで現場に向かったのですが、到着したのが入り時間の3時間後。“終わったな……”と覚悟しました。あまりの申し訳なさで、それから数日間は精神的に苦しい撮影でした」
シリーズ化された作品だが、番組の打ち上げは1~2回しか行われず、飲み会の席でも田村さんと話す機会はなかった。
「どう思われているのか気になりましたが、ボクへの不満はおっしゃっていなかったとプロデューサーから聞いて、ほっと一安心しました。ボクには何も語らなかった田村さんですが、ストイックに打ち込む俳優のあり方を教えていただきました」
『古畑任三郎』(フジテレビ系、1994~2006年)
田村正和が演じる警部補・古畑任三郎が、豪華ゲストが演じる犯人のアリバイやトリックを巧みな話術と推理力で崩していく大人気ミステリードラマ。中森明菜や明石家さんま、SMAPやイチローなど各界の大御所が追い詰められるさまに夢中になった。
【PROFILE】
にしむら・まさひこ
富山県出身。『振り返れば奴がいる』で注目され、三谷幸喜脚本作品に数多く出演。12月19~21日にかけ、主宰・プロデュースする劇団『演劇集団富山舞台』の東京公演を開催。
画像ページ >【写真あり】『古畑任三郎』制作発表記者会見での田村正和さん(他1枚)
