安倍政権によって海外の戦争に参戦することを可能にする「安保関連法」が成立した2015年。ほかにも「派遣法改正」「辺野古新基地建設」など、個人をないがしろにする政策が進められ、そんな政権に危機感が強まった1年だった。
そのなかで、一人ひとりの存在ははかなくても、実はその力は大きいのだということにも気づかされた。今、それぞれの命を守るための活動がつながって、ひとつのうねりとなって、日本を変えようとしている。
「この1年を振り返ると、やはりSEALDs(シールズ)のコたちの頑張りが大きかったですね。著名な憲法学者も弁護士も、年配の方やママたちも“シールズ菌”に感染して、声を上げざるをえなくなったのでは?」
シールズの前身「サスプル」時代からシールズを見守ってきた弁護士・武井由起子さん(48)は、自身もシールズ菌感染者だと笑う。武井さんは、デモに参加する市民の《表現の自由》が侵害されることがないようにと、弁護士有志で結成した「官邸見守り弁護団」の1人だ。
1児の母でもある武井さん。震災がれきの広域処理問題で、地元・神奈川のママ友と「ストップがれきの会」を結成してから、「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわかの会)」で、憲法カフェを開き、憲法の理念を広めるなど、八面六臂の活躍を続ける。
「憲法カフェの依頼が、秘密保護法の強行採決後、増えたんですね。しかも、母親グループから。やはり、モノ言えぬ社会になり、子どもが戦場に駆り出されるのではと危惧する母親が増えたんですね」(武井さん)
7月、「安保関連法案に反対するママの会@神奈川」が結成され、武井さんもメンバーに。9月の強行採決後、メンバーが脱力してしまったとき、「絶対、活動をやめないで!」「家庭に戻らないで!」と真っ先に声を張り上げたのが武井さんだった。7月から走り続けで、家は足の踏み場もないと嘆くママには、「うちなんて、もっとぐちゃぐちゃだから大丈夫!」とハッパをかけた。
「安保関連法に反対するママの会@石川」の呼びかけ人の市井早苗さん(37)も、安保関連法成立後は、起き上がれないほど疲れ切っていた。それでも数日休むと、再び、精力的に動き回っている。モチベーションの源は、子どもたち。市井さんには8歳と5歳の息子がいる。
市井さんが政治に開眼したのは、原発事故からだ。当時は東京に住んでいたが、4歳だった長男が頻繁に鼻血を出して心配になり、当時1歳4カ月だった次男と母子3人で、夫の実家がある北陸に移住した。その次男は、未熟児で生まれ、生後1カ月半までNICU(新生児集中治療室)に入っていた。
「NICUでは、皆、生と死の境を行ったり来たり。昨日まで泣き声を上げていた子が、今日は亡くなっている……。うちの子はたまたま生き残ることができたけど、命って、あっという間に失われてしまうんだと思って」(市井さん)
命の尊さを痛感したからそこ、命を守るために活動したいと考えた。しかし、身近な人でさえ、わかりあえないことも少なくないという。
「私の身内でさえ『隣国の脅威が高まっているのだから、安保法制は必要。誰かが行かなきゃ』って。でも、そこには圧倒的に想像力が足りない。その“誰か”が、わが子だったら、孫だったら、同じように言えるのでしょうか」
こうして“命”に重きをおいた価値観が、ママたちによって積み上げられていく−−。12月2日。金沢で開かれた「戦争法案廃止!憲法壊すな!石川県民集会」の壇上に立った市井さんは、スピーチをこう締めくくった。
「今、必要なのは対立することじゃなくて、手をつなぐこと。一人ひとりが自分でできる“不断の努力をふだんから”をして、笑顔と愛を絶やすことなくママレボリューションを起こしていきます!」