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野党の反対を押し切り、カジノ解禁を含むIR法案、年金カット法案を強行採決するなど、“数の力”でやりたい放題の安倍政権。今度は1月下旬から始まる通常国会に、自民党が提出する予定の「家庭教育支援法案」(仮称)が物議を醸している。

 

家庭への支援というと「経済的な理由で進学できない人への支援」「いじめにあっている子どもの家庭にカウンセリング」など、困っている人に手を差し伸べるような法律なのかと思いきや、そうではない。憲法改正へ着々と準備を進めているのが透けて見えると識者は警告する。

 

どんな内容なのか、立命館大学法学部教授の二宮周平さんに聞いてみた。

 

「平たく言うと『家庭で親が子に、国や社会で役に立つ人になるための教育をしましょう』『国や自治体はその手助けをします』ということです。今、学校では、いじめや不登校といった問題が起きており、先生たちは、生徒一人一人のケアに手がまわらない状態です。家庭でしっかり子どもを指導してください、という趣旨でとらえると、法律を作るのは意味があると思いがちですが、そうではない。家庭教育に国が介入することを意味します」

 

また、全日本おばちゃん党代表代行、大阪国際大学グローバルビジネス学部准教授の谷口真由美さんも、こう語る。

 

「みんなが同じ方向を向きなさいという教育を家庭でも学校でもしようということ。枠からはみ出ないで、従順でお上にも逆らわない、そういう子どもを育てようとしているようなものです」

 

学校と家庭での意見が割れないようにしようというのが、この法律の狙いと谷口さんは指摘する。

 

報道によると、素案は、「国家と社会の形成者として必要な資質を備わえさせる環境を整備する」「生活のために必要な習慣を身に付けさせる」などと規定するという。そしてこれらが身に付くように、地域住民については「国及び地方公共団体が実施する家庭教育支援に関する施策に協力するように努める」ことを「責務」と位置づけている。なぜ今、家庭教育なのか。話は10年前までさかのぼる。

 

「’06年、第一次安倍政権のとき、『愛国心の導入』を目標の1つにして、教育基本法を改正し、『家庭教育』の項目を新設しました。そこで、『保護者が子の教育に第一義的責任を有する』と明記しました。『家庭のあるべき姿』を規範として定めようとする、安倍晋三首相の一貫した考えが根底にあるのです」(谷口さん)

 

親による子育てが大事だと強調し始めたのが「親学」だ。安倍政権は’07年の教育再生会議で、親になろうとする人が、育児について親学を学び、自治体に親学を学ぶ機会を提供することを提案した。ところが、当時、首相補佐官だった山谷えり子元拉致問題担当相が中心になってまとめた「親学マニュアル」がやり玉に挙ったのだ。

 

そこには、「脳科学では5歳くらいまでに幼児期の原型ができあがる。9歳から14歳ぐらいに人間としての基礎ができる」などと極論を展開したうえで、「赤ちゃんの瞳をのぞきながら子守歌を歌い、できるだけ母乳で育てる」「授乳中はテレビをつけない」「早寝早起き朝ごはん」「親子で感動する機会を大切にしよう。テレビではなく演劇など生身の芸術を鑑賞しよう」などと、家庭生活の“あるべき姿”が具体的に記述されていたからだ。

 

このトンデモ提言は、世間から猛反発を食らっただけでなく、内閣からも「人を見下したような訓示」だと厳しい批判が出て、「親学」の2文字は消えた。しかし、それでもめげない自民党は、野党だった’12年春、超党派の議員で「親学推進議員連盟」を発足させ、安倍首相が会長(当時)に就任。家庭教育支援のための法律の制定に再び舵を切った。ここでも「伝統的な子育てで発達障害を予防できる」という内容の勉強会を開いて、発達障害の当事者や支援団体から非難の声があがった。

 

「何度たたかれても、手を替え品を替え、親学を出してくる。安倍首相の執念を感じます」(谷口さん)

 

そんな自民党の動きと連動して、改憲運動を展開している保守団体の「日本会議」が、3世代同居の「サザエさん」一家を理想として持ち上げ、憲法24条を改正すべきという主張を強め始めている。

 

「夫婦は平等であることを保障する24条は、『配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊重と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない』(2項)として、戦前、男女が不平等だった時代への反省を踏まえたうえでできました。今回の家庭教育支援法案は、男女や親子の役割を固定化しかねない。憲法24条改正への布石とも読み取れます」(二宮さん)

 

憲法で家族の助け合いを義務づけ、法律が標準的な家族像を示すことは、単身者や子どものない人、性的少数者など多様な生き方を否定し、人権を侵害することにつながりかねないと、二宮さんは懸念する。

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