メグミデンタルクリニックは日本でも珍しい入れ歯専門クリニックだ。もっと珍しいのは“即日完成の入れ歯”ができること。総入れ歯であっても、朝9時に診察を受ければ、9時間後の夕方6時には完成する。普通の歯科医院は1〜3週間かかるから、これは早い。

 

「バイトテイキング(かみ合わせ)の調整や若返りにつながる前歯の見せ方も、可能な限りチャレンジします。基本的には“落ちる”“痛い”“うまく発音できない”といった問題を解決していきます」

 

そう話すのは院長の柳田智恵子さん(56)。柳田さんにはもうひとつの顔がある。日本リビングウィル協会の代表だ。’03年、尊厳ある死と人生の整理を考える人のために、この協会を立ち上げた。

 

医学の進歩に伴い、人の寿命は延びたが、一方で、回復の見込みがない患者をただ延命させる治療が、果たして人間の尊厳につながるのか問題になっている。

 

ところが、日本では「尊厳死」を明確に規定した法律がなく、患者や家族の求めで延命治療をやめる尊厳死の決断をした医師が、「安楽死」させたとして、殺人罪に問われるケースもあった。法的に定義されない限り、患者が尊厳死を望んだとしても、医師は延命治療を続けざるをえないのが現状だ。

 

一方で安らかに最期を迎える緩和ケアを望みたい、と考える人も増えている。このように延命治療を望まない人が自分の意思を元気なうちに残しておくのがリビングウィル。死の迎え方以外にも、葬儀や財産分与など自分の死後についての希望を「意思証明書」として残す手助けをすることが、日本リビングウィル協会としてのおもな活動になる。柳田さんがリビングウィルを考えたきっかけは、祖母の死だった。

 

「祖母が亡くなった十数年前は、人工呼吸器や胃ろうを使っての延命治療に、当然のように移行していきました。それは、治すための治療ではなく、死なせないための治療です。でも、『死んでいない』のと『生きる』ことは違う。祖母を見て、そう考えるようになりました」(柳田さん・以下同)

 

今年1月、柳田さんは著書『人生のかたづけ整理術』(ダイヤモンド社)を出版した。

 

「出版後の反響は大きかったですね。対象は首都圏の人のつもりだったのですが、意外に多かったのが青森県と九州。昔ながらの習慣が残るなかで、皆さん葬儀やお墓のしきたりを簡素化していきたいという思いを持っているようです」

 

柳田さんの活動は、尊厳死だけでなく、死を迎えた後の葬儀やお墓、相続の相談まで広がっている。人の死にまつわる問題は種々多様で、すそ野が広い。土地や家をどう処分するか、遺産や遺品を誰に譲るか。生前、決めておくべきことは、実際、驚くほど多い。

 

「私たちは、死にまつわるすべての相談に乗れるよう、弁護士、税理士、葬儀社、不動産会社などと協力しています。リビングウィルの普及を通じて、不安のない死を迎えるための生活全般のサポートをする。それが、協会の目的です」

 

《私、柳田智恵子は延命治療は望みません。苦痛を和らげることだけお願いします。葬儀、埋葬は、夫、長女、次女でお願いします》

 

これは、柳田さん自身のリビングウィル(抜粋)だ。

 

「これを手元に置いて、毎年大みそかに更新します。状況は日々変わりますし、更新することで、毎年、自分自身を見つめ直すこともできます。死ぬことは、もちろん怖い。でも、リビングウィルに、痛みを取ってくださいと書いたら、半分、気楽になりました」

 

自分の死と死後を真剣に考え、最期まで自分らしくいるための準備をすることが、今をより輝かせてくれる――。