今、日本で飼われている犬猫は約2,061万頭。うち1,087万頭が犬である(’13年・一般社団法人ペットフード協会調査)。こんなに多くの人が犬と暮らしているにもかかわらず、日本人の犬に対する意識は低い。

 

法律上、犬はモノ扱いで、街中で誰もが簡単に子犬を買える。そして、年に16万頭(’12年・環境省統計)を超える犬猫が殺処分される。それにひきかえ「ペット先進国」のドイツは、殺処分が0頭!街は幸せな犬たちで溢れている。日本との違いは何か。犬と人が幸せに暮らす秘訣をベルリンで探ったーー。

 

ベルリンの中心から約10キロ、車を20分ほど走らせると、世界中の動物愛護団体が手本にする「ティアハイム ベルリン」(「ティア」は動物、「ハイム」は家の意味)がある。コンクリートのモダンな塀の中に入ると、一面の緑と水。まるで美しい公園だ。動物臭はまったくせず、こんなに清潔でのどかな施設に1万頭もの動物がいるとは、にわかには信じ難い。

 

睡蓮が咲き乱れるお堀を渡った先には、円形の「犬棟」がいくつも連なっている。部屋の中は暖房完備の9個の個室(6平方メートル)に分かれていて、それぞれにテラス(9平方メートル)が。個室の前に置かれた写真付きカードには、その犬の性格や年齢、特徴などが事細かに書かれている。訪れた人は施設内を自由に見学でき、スタッフに頼めば散歩もさせてもらえる。取材当日も、たくさんの人が見学に訪れていた。

 

なぜ、ここでは「殺処分ゼロ」を実践できるのか。広報のエヴァマリー・ケーニヒさんに話を聞いた。

 

「まず、ドイツでは動物保護法で動物の殺処分は禁じられています。病気の場合でも、獣医師ほか何人もの専門家が『ほかに方法がない』と証言するまで安楽死もできません。この施設で殺処分をしているという風評があるそうですが、約1千頭いる犬猫のうち、病気やけがによる安楽死は1年に1件あるかどうかです。昨年は1千335頭の犬を引き取り、1千325頭を譲渡しました。特に問題のある犬は譲渡せず、生涯面倒をみます。いちばん長い子は、もう7年もここにいますよ」

 

昨年は、実に99%以上が新たな飼い主に引き取られている。ちなみにおととし、東京では783頭の犬が施設に引き取られ、うち160頭が殺処分された(東京都福祉保健局発表)。

 

ドイツでは約530万頭の犬が飼われているが、これは日本の約半分だ。入手ルートはブリーダーや知人から譲り受けるか、ティアハイムから引き取るしかない。一部の特別地区を除き、生体販売は法律で禁じられている。日本のような、ペットショップがないがゆえに、安易な気持ちで犬を飼うこと自体が難しい。飼うことを決めてから、さらに何年も待つ人も多いという。

 

「ドイツには『犬税』(ベルリンは1頭目は120ユーロ/年、2頭目からは1頭につき180ユーロ)があります。『犬の法律』では、飼い犬に散歩や十分な運動をさせる、人や犬とのふれあいを持たせるなど、飼い主の義務が明記されています。また『動物保護アドバイザー』がいて、散歩をしないなどの虐待が疑われる場合、市民が通報します。アドバイザーが訪問指導し、3カ月後にも改善が見られない場合は、獣医局が犬を保護することも。ドイツ人は犬をパートナーだと思っているので、それに見合った扱いをするんです」

 

ドイツでは犬の不遇を社会が許さず、多くの飼い主には犬を飼う覚悟がある。パートナーのためには時間を使うし、できるかぎり一緒に過ごす。もちろん安易に“買う”こともない。それがベルリンの人がごく当たり前に実践する、犬と人が幸せに暮らす方法だった。

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