「CT写真で見ると、左肘の骨の一部ががん細胞の増殖で溶けているんですよ。でも、大きな痛みもなく自由に動く。軽い運動もまったく平気。余命半年と宣告されて4年たった患者とは思えないでしょ(笑)」

 

東京でドイツ系米国人の父と日本人の母の間に生まれたシャムレッフェル・レックスさん(63)は、300人の講師を抱える外国人英語教師の派遣業をしていた。’11年3月、人生初の人間ドックに入って5日後、病院から「精密検査を」との連絡が入る。

 

「入院検査の結果、原発腎臓がんステージⅣ、両肺、リンパ節転移という診断でした。末期がんで手術や放射線治療にはもう間に合わず、抗がん剤治療をすぐに始めましょうと……」

 

レックスさんは病院の治療と並行してさまざまな代替治療を試すことにした。ハワイに行き、中国式食事療法の指導を受け、ドイツで有名なゲルソン療法も取り入れ、断食も経験。

 

ビワの葉を使ったビワ葉温圧療法を受けると、体調が安定。妻の公子さんが、枇杷(びわ)葉温圧指導員の資格を取得し、自宅で治療が受けられるようになった。そして’12年5月には欧米で話題の代替治療であるバドウィック療法を試すため、スペインのバルセロナへ。次女のレイチェルさんが同行した。それをきっかけにリンパマッサージ師の資格をレイチェルさんが取得。

 

この時期、2年半ほど病状は奇跡のように落ち着いていた。そのとき、彼が思い立ったのが自分の療養所を兼ね、温泉付きのホテルを造ることだった。

 

「自分がなってわかったのですが、末期がんの人はなかなか自分からオープンにはしないので同士ができにくい。もしホテルを造ったら同じ末期がんと闘う人に泊まりに来てもらって、情報交換や励まし合いができると思ったんです」

 

’12年秋、自家源泉があった伊東の企業の元保養所を購入。改装ののち’13年9月「和ホテルRSC」(全10室)をオープンした。

 

「源泉掛け流しの温泉で浴槽にはがんによいという北投石を入れ、高温風呂免疫療法ができる浴槽も併設。ホテル内には、がんが嫌がる、人の耳には聞こえない高周波を常時出す超音波発生器を設置したり、気功整体、ヒーリングエステ、ビワ葉温圧療法の専用ルームも作りました。私自身、どの代替療法が本当に効いたのかはわからない。試して少しでもいいかなと思ったものをすべてそろえたつもり」

 

開業当初、レックスさんの思惑は外れ、まったく宿泊客はこなかった。ところが、次第にがん患者の間で口コミが広がり話題になって、今では月に5〜6人の末期がん患者がやって来る。大腸がんステージⅣで余命1年と宣告されたのちに宿泊体験した75歳の男性は言う。

 

「実際に宣告されたものでないとその心境はわかりません。そうしたもの同士が集まって、レックスさんを手本にしながら、自分も生存率の残りの数%に入るぞという気概を持てた。それだけで宿泊したかいがありました。みんなで『来年も会いましょう』と握手して別れたのが忘れられません」

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