友達や彼女との時間が最優先で、親を疎んじがちだったはずの20代男子が、なぜか最近、母親と仲がよい。そんな男のコ=“ママっ子男子”が社会現象化しているという。ママっ子男子の特徴のひとつが、サバサバとした母子の距離感だ。母親は息子に過剰な執着心を持たず、息子も素直に恋愛を語り、相談。また、恋人同士のように、母子でよくショッピングしたりもする。

 

その多くは平成生まれの男のコとアラフィフ世代の母親の組み合わせらしい。そこで、実際のママっ子男子を例にとり、「さとり世代」「マイルドヤンキー」の名付け親・原田曜平さん(38・博報堂・若者研究所リーダー)と、「草食男子」を生み出したコラムニスト・淑徳大学客員教授の深澤真紀さん(48)に話を聞きながら、“ママっ子男子”は従来のマザコンとはどう違うのかを探った。

 

東京・有楽町。ゆるふわにセットされた栗色の髪を弾ませ、生足に黒のミニスカート、高いヒールのサンダルも軽やかに、西岡直美さん(53・女性誌ライター)が若いイケメン男性と腕を組んで、やってきた。まさに美魔女!その腕をとる黒髪にシャツ、ハーフパンツの彼こそが、次男・大助さん(21)。眼鏡の奥で控えめにほほ笑む実直そうな青年だ。

 

有楽町は、母子でよくショッピングをする街。「まとめて数万円分の服を買ってくれるので、助かります」と、息子は爽やかに言う。恋バナも赤裸々にする。大助さんが現在、年上の女性と交際中だが、「彼女は絶対、大クンのこと好きだよ。押しなよ」と、その後押しをしたのは直美さんだった。

 

ディズニー・シーでのデートが決まり、直美さんは2人のためにファストパスとショーのチケットを取った。チケットを渡すため、2人の前に突然、現れた直美さんには大助さんも「彼女にマザコンと思われたらどうしよう」とビビったそう。だが、直美さんはチケットだけ渡し、「じゃあね〜!」と、軽やかに去っていった。

 

そんな男前の母は、憧れでもある。西岡母子の恋バナは、友達同士の会話のよう。母と子の間に壁や隠し事が一切ない。風通しのよい母子はどこまでも爽やかだった。

 

「ママっ子男子の母親世代の50代は、自由恋愛で結婚した日本で初めての世代。母親が恋愛経験豊富になったことで、子どもの恋愛にも理解を示せるようになったのでしょう。この世代の母親は仕事もしているし、バブル時代に旺盛な消費活動をした経験から、オシャレや友達と出かけることが好き。ベッタリ子どもに依存していないから、子どもにとっても重くない。息子が母親と買い物に行くのは、バブルを謳歌した母親は美意識が高く、アドバイザーとして有能だと知っているからです」(原田さん)

 

ママっ子男子ママと同世代の深澤さんは、次のように分析する。

 

「アラフィフ女性より上の世代は、結婚するまで処女という人が圧倒的。でも、私たちの世代は、中学のころから恋愛経験を積んでいます。子どものほうも、母親が父親以外の男性と恋愛経験があると知っているから、必要以上に母親を“神聖化”しない。だから、一人の女性として、母を見られるようになったのでしょう」

 

ママっ子男子誕生には、ソーシャルメディアが大きな影響を及ぼしていると、原田さんは指摘する。

 

「昔は子どもが帰ってくるまで、親はただ家で待つしかなく、いつも心配でした。それが親子げんかの種にも。ところが、今はSNSで常時接続が可能です。コミュニケーション量が圧倒的に増えたことで親も安心して、衝突する機会も減ったのでは?

 

たしかに、言いたいことをポンポン言い合う西岡さん母子も、ベースにあるのは圧倒的なコミュニケーション量だった。友達より親子の絆が強くなっていることも、原田さんはSNSの影響と指摘する。

 

「SNSで多くの友人とつながる若者世代は、1人に秘密を漏らすと、あっという間に仲間全員に知られてしまう。だから、昔なら、親友には言うけれど親には言えないという現象が、逆転したんです。こうして母親への信頼は高まり、母親には本当のことを打ち明けるけど、友達には当たり障りのないことしか言わない若者も増えています」

 

西岡大助さんは、母親との将来の関係についてこう語っていた。

 

「僕が社会人になったら、いつかどこかで、母さんとの関係性が変わるでしょう。でも、それは、僕が大人になるということ。母を『人生の先輩』と仰ぎ見るよりも『守らなければいけない人』と、思うようになるのではないのかな」

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