「自分がドラマのモデルというのは、恥ずかしいです。僕は、役所の中でもっとも嫌われている公務員ですから」
そう笑うのは、石川県羽咋市職員の高野誠鮮さん(59)。唐沢寿明演じる主人公が、過疎の村と人を元気にしていくドラマ『ナポレオンの村』(TBS系日曜夜9時)のモデルとなっている人物だ。
高野さんは羽咋市の限界集落を“年間予算60万円の4年間”で立ち直らせ、ローマ法王に集落の米を献上し、ブランド米化にも成功させた“伝説のスーパー公務員”。ドラマの原作となった著書『ローマ法王に米を食べさせた男』(講談社)も話題を呼んでいる。
多くの困難を乗り越え、不可能を可能にしてきた高野さんの奇跡の歩みを、“魂の言葉”で振り返ってもらった。
言魂1「役人とは、人や地域社会の役にたつ人のことです」
市役所での初仕事として「町づくり村おこし」の命題を与えられたが、予算は限られている。お金がないから考えるしかなかった。
「地元の人に話を聞いて回る中で、市内の氣多大社の古縁起書に、『麦わら帽子のような物体が市の空中を飛んでいた』という一文を見つけました。それで『UFOで町づくり』を思いつきました」
言魂2「成功と失敗は紙一重。やるとやらないとでは雲泥の差が出る」
さっそく町おこしで手紙を送る「レター作戦」を展開した。
「羽咋の紹介と『UFOで町おこしをしていることへの感想と激励メッセージをください』という内容で、最初に当時のソ連共産党書記長ゴルバチョフに手紙を書きました。可能性の無視は最大の悪策です。手紙を書こうと考える人は多い。でも考えるだけで行動する人が少ない。僕は手紙を書くバカになってほしいんです。実際、その後ゴルバチョフから返事が来て、それも市の財産となりました」
言魂3「人生で嫌なことは、その『苦手を乗り越えなさいよ』という訓えなんです」
破天荒な言動から生まれた成功を妬まれたのか「お前みたいなやつは、飛ばしてやる!」と、上司に嫌われた高野さんは、’02年に農林課へ左遷。’05年、上司が替わり、限界集落である「神子原地区」の立て直しに着手する。交流のために都会からの学生を受け入れ、「空き農地・空き農家情報バンク制度」も立ち上げ、Iターン移住者を呼んだ。そして、限界集落からの脱却に成功した。
「これは左遷されたときに自分を励ました言葉です。嫌なことを与えられても克服すればいい。必ず天の采配がおこります。私はこの左遷を天佑だと感じました」
言魂4「これがダメなら次はこれと最低でも3つは考えます。だから失敗の数も多い」
その次に挑戦したのが、1年以内に“農作物をブランド化”すること。
「最初、神子原地区の米を宮内庁に持っていきました。一度は納める許可が下りたかと思いましたが失敗に終わりました。人間は『これがダメなら人生終わり』と直線思考になりやすいですが、植物はいくつもの茎に分岐しています。可能性も分岐させなきゃいけません。次に浮かんだのが、神子原は英語で『サン・オブ・ゴッド』です。ならばキリスト教でいちばん影響力のある、全世界11億人の頂点に立つカトリックのローマ法王しかいない!と思いつき、急いで手紙を書いたんです。(ローマ法王庁から連絡が届き)すぐに東京のローマ法王庁大使館に45キロの米を持参したところ、正式にローマ法王への献上ができると決まったんです。失敗したら、成功するまでやればいいんです」
言魂5「二番煎じはつまらない。自分が前例になればいい」
最近は青森県の「奇跡のリンゴ」農家で有名な木村秋則さんと組み、全国初となる「自然栽培実践塾」を開催した。
「オーガニックを超えた『ジャポニック』の自然栽培法を世界に売り込むのが目標です。先手必勝、進取の気性。どこもやっていないから価値があるんです。北陸新幹線の開通に合わせて、羽咋市内の寺の境内に『不殺生戒』の自然栽培にこだわった野菜や果物を販売する日本初の寺の駅『寿福』も開店させました」
来年3月の定年を前に「国宝づくり」も手がけている高野さん。不可能への挑戦は今も続いている。