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9月3日、瀬戸内寂聴さん(93)の故郷・徳島市で開催された戦後70年特別シンポジウム『ともに歩む これからを生きる』(徳島新聞社主催)。あいにくの雨だったが、寂聴さんと山田洋次監督(84)の対談を聴くために、会場となった「アスティとくしま」は4千人近い人々でいっぱいだった。

 

――寂聴さんは反戦、平和の活動に関わるなかで「殺すなかれ、殺されるなかれ」というお釈迦さまの言葉とともに、「忘己利他(もうこりた)」という言葉もよく話されますよね(シンポジウムの司会者・以下同)

 

寂聴「『もう懲りた』じゃないのよ(会場・爆笑)。伝教大師・最澄さんの言葉なんです。『己を忘れ他を利する』――自分が得をすることや、自分が幸せになることに、みんな夢中ですよね。そうではなくて、自分の損得や幸せになりたい気持ちは置いておいて、他の人が幸せになって得をするように努めなさいというのが、最澄さんの教えなんです。なかなか守れないんですけど、いい教えですね」

 

山田「僕が昔、日蓮宗のお坊さんにお話を聞いたときに、『映画「男はつらいよ」の寅さんの生き方を我々は「船頭さんの生き方」という言い方をします。渡し舟の船頭は自分ではなくて、まず他の人を渡してやる。自分は渡らないけれど、他の人を渡す。寅さんというのは、そういう生き方をした人ですね』、そう言われたことがあります。寂聴さんのおっしゃる『忘己利他』と、同じことだと思いますね」

 

――監督、戦争についても平和についても、(寅さんのように)難しいことを、わかりやすく語らなければいけないですね。

 

山田「ただわかりやすくあればいいんじゃなくて、正確にわかりやすくなければいけない。つまり、真実じゃなきゃいけない」

 

寂聴「そうそう」

 

山田「いまのこの国の総理大臣は、わかりやすく、まったく別なことを言っちゃうというところがありますからね」

 

寂聴「話は長いですけれど、聞いていても感動しない。心が感じられませんね」

 

山田「居酒屋で酔っぱらったオヤジが言っているような、ばかばかしいことを言う。安保法案についても、『戸締りしなきゃ、泥棒が入るのは当たり前だろう』みたいなことと、国と国との微妙な関係を『戸締り論』で一緒くたにしちゃうのは、間違いだと思います」

 

寂聴「私は寅さん映画(のビデオ)は全部買って持っていますよ」

 

山田「ありがとうございます」

 

寂聴「何かムシャクシャしたときに、あれを見るとホッとして、とてもいいんです(笑)」

 

山田「寂聴さん、渥美清さんが亡くなって、『寅さん』が終わってから20年になるんです」

 

寂聴「あっという間ですね」

 

山田「寅さんという常識に欠けているけれども、腹の中にはイチモツもないような男に興味を持って、僕はあの映画をつくり始めたのですけど、振り返ってみると、“家族の物語”なんですね。そういう困った男を扱いかねている、きょうだいや親戚、あるいは隣近所の人たちがいて、かといって、あいつがいなくなると、何となく寂しい。『困ったなぁ。またあいつが帰って来ると、大騒ぎになるな』と言いながら、どこかで彼が帰ってくるのを期待していたりする。観客も(映画に登場する)家族たちがケンカしたり仲直りしたり姿を見て、笑ったり涙ぐんだりしたり……。きっと観客もそういう家族関係が周囲から消えつつあることを感じていたのでしょう」

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