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いままで「人生で否定されることの多かった」少年たちは、犬との交流を通じて「愛されること」=自分の人生を歩むうえで最も大切な「原点」を学んでいく。殺処分されるかもしれなかった犬も、訓練を終え、引き取られた家族のもとで新しい一歩を踏み出していく−−。

 

7月末の千葉県八街市。照りつける日差しが芝生の上に、女性と少年たちの濃い影を作っていた。そして、少年たちの足元には、影のように寄り添う3匹の犬がいた。

 

緑の樹々に囲まれ、頭上には青い空がどこまでも広がっている。まるで夏休みの課外活動の一シーンのようなのどかな光景。だが、和やかに少年たちと犬が触れ合っているこの場所は、全国に52カ所ある少年院の一つ「八街少年院」。犬を散歩させているのは、社会のなかで非行を働き、家庭裁判所から保護処分を言い渡され、ここに送られてきた少年たちだ。

 

少年と犬の一挙手一投足に目を配り、女性は少し離れた場所から声をかける。ときには、少年たちの緊張を解きほぐすかのように、少しおどけた調子も交えながら。彼女は東京に本部を置く一般財団法人ヒューマニン財団のドッグトレーニングインストラクター・鋒山佐恵さん(31)。ドッグトレーニングの先進国、アメリカで長年研鑽を積んできた。だが、彼女自身が直接、犬たちに指示を出すことはない。

 

「ここでは、私が犬をトレーニングすることはありません。少年たちが全部やるんです」(鋒山さん)

 

日本各地の少年院では長年、効果的な矯正教育の方法が模索されてきた。そんななか、アメリカの更生施設や刑務所で、犬を使った教育活動を経験した鋒山さんの協力のもと、八街少年院が昨年から実践しているのが動物介在型の矯正教育活動だ。少年たちが犬の訓練を通じて命の尊さを見つめ直し、犬との信頼関係を築くための忍耐力や責任感を養うのが狙いである。約3カ月の間、少年1人と犬1匹がペアを組み週4日、平日の午後に、およそ90分間の訓練を行う。これまで2期、6人と6匹がプログラムを修了した。

 

この八街少年院でのプログラムを。鋒山さんは「GMaC(ジーマック)」と名づけた。「Give Me a Chance」の意味が込められている。

 

「ぼくにチャンスを、ということですが、この“ぼく”は、参加する少年たちはもちろんですが、訓練を受ける犬たちのことでもあるんです」(鋒山さん)

 

少年たちとペアを組み、訓練されているのは「保護犬」と呼ばれる自治体の動物愛護センターに収容されていた犬たちだ。訓練を行っている1人の少年(18)は、優しそうな笑顔が印象的だが、じつは今回で3回目の少年院だという。過去2回の少年院生活で、彼は「自分が変わりたいと本気で思えるきっかけを見つけられなかった」と話した。

 

「自分はこれまで、一生懸命なんてカッコ悪いという世界で生きてました。だから何事も適当にやってた。でもGMaCに参加したら、犬たち、皆一生懸命なんですよね。それ見てたら、いままでの自分の適当な人生がイヤだなと思ったし、変えたいと思うきっかけになりました。アズキ(ペアを組んだ犬の名前)と出合えたおかげで、いま自分が大きな岐路に立ってることに気がつけた。これまでみたいに悪い世界へ一直線じゃなくて、普通の生活、生き方をしてみたいと、心からそう思えるようになりました」

 

カリキュラム作りなど、GMaCの立ち上げから主導してきた八街少年院の山下嘉一首席専門官はこう語る。

 

「社会にいたころの彼らは、うまくいかないことがあったとき、家が貧しいから、母子家庭だから、周りに悪い友がいたからと他罰的な感情で物事を見る傾向が強いんです。でも、そんな感情のままでは、犬の訓練で生じる問題はまったく解決できない。『なんでできないんだよ!』と犬に怒ったところで何も進展しませんから。どうしたらできるようになるのか、と問題を自分のことと捉えないと。つまり、生徒たちは犬の訓練を通じて、自分を見つめ直すことの重要性に気付かされるんです。まだ人数も少なく、始まって間もないですが、GMaCを修了し出院した4人の生徒は、全員再非行もなく、しっかり社会生活を送っているという報告を受けています」

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