(写真・AFLO)
「マイケルの思想は、とてもシンプル。おかしくなった社会から“子供を守れ”ってことなんです」
そう話すのは、東京大学東洋文化研究所教授で、『マイケル・ジャクソンの思想』(アルテスパブリッシング)を出版した、安冨歩さん。没後7年がたとうとするマイケル・ジャクソンは、人間社会が抱える問題を根本から解決する思想を作品で示し続けたという。
「負の連鎖は続き、社会に不安が満ちていくんです。こんな社会を変えるためには、子供が安心して、のびのびと生きられる環境をつくること。そのためには、大人が子供に学ぶべき。それが、マイケルが作品を通して全身全霊で伝えたかったことなんです」
子供がイキイキとしている社会は、ともに生きる大人の不安も解消される。なんだか、むずかしそうな話だが、マイケルの教えを実践すれば、子供の魂を守り、不安な時代を生き抜く勇気が持てると安冨さんは語る。マイケルの作品とともに考えてみよう。
【1】現実と向き合う『ブラック・オア・ホワイト』
負の連鎖は家庭のなかでも、受け継がれる。結婚して、子供を産んで、郊外に家を建てて。一見、幸せそうに見えるが、心は満たされない……。そんな自分の心に気づかないフリをしている人は、結構多いのでは?この作品に登場するのは、小学生くらいの子供と、倦怠期を迎えた夫婦。
「思い描いた理想と日常が違っているという現実と向き合うのはつらい。けど、目をそらさずに、心の痛みを感じることです。そうしなければ、真の幸福も手に入りません。人は、現実と向き合い痛みを感じて、もうどうしようもないくらいつらくなったら、やっと自分を変える一歩を踏み出せるのです」(安冨さん・以下同)
【2】小さな居場所をつくる『マン・イン・ザ・ミラー』
では、現実と向き合った結果、このような冷めた家族関係であることがわかった場合、どのようにして、新たな一歩を踏み出せばいいのだろうか。マイケルはこの曲の中で、“色あせた夢”から脱出して、「生き方を変えよう」「変革を起こそう」と呼びかけている。
「変革というのは、しがみついていた幻想の幸せから抜け出し、本当の意味で自分の人生を生きるということ。そのために、自分がありのままに生きられる“小さな居場所”を作りだそう、とマイケルは訴えているんです。小さな居場所をつくるために、頭で考えるより、闇雲にでもいいから行動してみましょう」
【3】子供を守るために歯車を止める勇気をもつ『Jam』
しかし、変革を起こそうとしたら、周囲との軋轢が生じることもある。マイケルは曲の中で、それでも行動しようと訴えた。たとえば電車の中で、自分の子供が泣いたとする。周りの乗客から向けられる冷たい視線……。思わず子供を、「泣くんじゃないの!」と叱ってしまうこともある。
「だけど、子供は何か理由があって泣くんです。周りの乗客との摩擦を恐れて叱るのではなくて、子供に理由を聞いて、味方になってほしい。周囲の目という歯車を止めることで生じる摩擦を恐れないことこそが、マイケルの歌う“Jam”の精神。周りの乗客から苦情を言われたら親が謝ればいいんです」
【4】自分のために人を助ける『ウィ・アー・ザ・ワールド』
とはいえ「歯車を止める」のには、勇気がいる。勇気が出ない人は、「寄付などをして、困っている人を助けることも、生きやすい世の中をつくるためのチャンス」と、安冨さんは提案する。
【5】子供の意見を尊重する
最後に、もっとも大事なマイケルの思想をお伝えしよう。安冨さんいわく、「それは、子供の意見を尊重すること」。子供は一見、とんでもないことを言ったりしたりしているように見えても、あとから考えると、それが理にかなっていることが多いという。
「おかしな社会に染まっていない子供の声を聞いて、行動する勇気を持つことが、大人のあなた自身の魂も救うことになるでしょう」