image

「学生に『憲法を守る義務があるのは誰?』と聞くと、多くが『私たち国民』と答えますが、違うんです。国会議員など権力者こそが『この憲法を尊重し擁護する義務を負う』と日本国憲法99条に明記されている。その義務を負う政府が国民に『憲法尊重』を義務づけようとしているのが、自民党改憲案なんです」

 

こう語るのは、大阪国際大学准教授で、Facebook上のグループ「全日本おばちゃん党」代表代行の谷口真由美さん(41)。谷口さんは「そこを国民が正しく理解することが急務」と強く感じている。

 

6月19日、安倍首相はインターネット番組での討論で「(憲法審査会で改正すべき対象が)どの条文か決まっていないからこの選挙では議論できない。必ずしも争点とする必要はない」と「改憲」から関心をそらす発言をした。しかし自民党日本国憲法改正草案には、改正対象となる条文がしっかり列記されている。

 

「政府の意図はすでに明白です。もちろん『9条』は安倍首相や

改憲派の大目標ですが、それ以外にも、私たちが少なくともいまより『機嫌よく生きられへん』内容に変えられてしまっている項目がある。それも大問題なんです」

 

そう言って谷口さんが真っ先に挙げた条文は第24条だ。

 

「まず『家族』という言葉を出して『互いに助け合わなければならない』と義務のように記載しているところです。その場合、国家は社会保障を家族単位でする必要しかなくなる。『家族というのは犠牲を伴うもので、自分たちだけで助け合って生きていったらエエねん』と言われているように聞こえるんです」

 

そもそも「家族」が「社会の自然かつ基礎的な単位」だと、わざわざ憲法に記そうとしていること自体が「押しつけがましい」として、続ける。

 

「これだと『助け合わない家族は非国民だ』という論調です。でも、『毒親』もいれば、家庭内暴力で手に負えない子どももいる。DVだってある。そもそも家族がいない方はどうするんですか?家族という単位以前に、『個人』が守らなければ、日本国憲法が根底から覆されてしまう」

 

ここで谷口さんが言う「個人」とは現行憲法第13条にハッキリと記載されている。

 

《すべて国民は、個人として尊重される》

 

これが自民党改憲案では次のように書き換えられている。

 

《全て国民は、人として尊重される》

 

一見、何が変えられているのかわかりにくいが、「それこそが改憲派の狙い」だと谷口さんは解説する。

 

「『国民は個人単位ですよ』と書かれているものをわざわざ『人』と変えている。よく意味のわからない文章にボヤかす裏に、個人の権利を弱める狙いがあるはずです。国民の幸福追求権も、改正案では『公益及び公の秩序に反しない限り』と限定されている。家族という集団に重きを置かせることで、個人よりも集団、つまり『国家の利益を優先しなさい』と言っているんです」

 

わずか1文字の違いでこれだけのリスクを負わされる恐れがあるというのだ。24条に戻ると、次に問題なのは、「婚姻」に関する記載だという。

 

「現行憲法は『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立』としているのを、改正案では『のみ』をわざわざ削除している。両性の合意だけでは成り立たないのが結婚だという論調で、それが意味するのはつまり、『個々ではなく、家族の意思が優先だ』と言いたいんでしょうね」

 

親や家族の反対を押し切って結婚する夫婦はいるし、現行憲法はそれを保障している。しかし、「家族に反対されたままでは結婚できない」世の中が来るのだと谷口さんは指摘している。

 

「結婚しない生き方を選ぶ権利もあるし、子どもを持たない人もいる。個人の選択の結果、1人になったとき『家族を形成していないから国民として認められない』ということになってしまう。ものすごく気持ちが悪い条文に書き換えられているんです」

関連カテゴリー:
関連タグ: