7月1〜2日にバングラデシュの首都・ダッカのレストランで起きた「バングラデシュ人質テロ事件」は、過激派組織「イスラム国」(IS)バングラデシュを名乗る組織が犯行声明を出した。
惨殺された20人のなかに7人もの日本人が含まれていたことに加え、うち酒井夕子さん(42)、下平瑠衣さん(27)と2人の女性がいたことにも大きな衝撃が走った。
亡くなった7人はJICA(国際協力機構)のプロジェクトに携わる企業の民間人で「現地の開発の支援のために」と尽力してきた。だが「私は日本人だ。撃たないでくれ」と懇願しても殺害されてしまった。現地に拠点を置く団体では、今回の事件を受けて活動が制限されることが懸念されているようだ。
では、これまでイスラム圏で支援活動をしてきた人は事件をどう受け止めたのか。イラク、ヨルダン、シリアなどで取材を続けるフォト・ジャーナリストの安田菜津紀さん(29)が緊急レポートする−−。
私が、バングラデシュでのテロ事件でまず思うことは、「日本人だから」被害に遭ったわけではないのではないかということです。一部では、今回のテロで日本人が殺害されたことを「安保法制の影響」と論じる向きもあるようですが、そうは思いません。どの国の人でもイスラム圏の過激派組織が“異教徒”とみなせば「敵」になり可能性は同じなのです。
シリア支援団体「サダーカ」スタッフとしてヨルダンでシリア難民の支援活動を行う田村雅文さんに、事件の印象を聞きました。
「ここ数年、シリア国内の友人から『もう誰が味方で誰が敵かわからない』という声をよく聞きます。シリアをはじめ多くの国々で無差別殺戮が繰り返されています。今回の事件もその一部に過ぎない。偶然、日本人がその場に居合わせたということでしょう。僕自身もヨルダンに来る前はJICA関連のコンサルタントをしていましたし、(6月に大規模なテロ事件があった)トルコのイスタンブールの空港も頻繁に利用していましたから、一連の悲劇は人ごととは思えないのです」
ただし、こうした事件を受けて、日本の企業や団体が「すべて撤退すべき」という流れになってしまってもよいのでしょうか。田村さんは言います。
「武力でテロはなくならないと思います。アメリカなどが言う『テロとの戦い』は、やり方を間違えれば逆にテロを増加させるかもしれません。この問題は単純ではありません。知り合いのシリア人の息子が、ISに参加しようとシリアに向かいました。ヨルダンにいても仕事はないし、家族の生活を支えるためにと、ISに入ったんです……」
ヨルダンの人口は約600万人ですが、正式登録されているだけでもシリア難民が60万人以上、実際の数はさらに多いといわれています。
「撤退か継続か」というゼロか100かの議論ではなく、正しい情報を把握したうえで、「どこまでできるのか」を模索し続けることが大事。そのためには、現地の人と向き合い対話することが必要です。
田村さんはじめ、支援で現地に入る人には「苦しんでいる人々を見過ごせない」という思いがある。だから、支援の根を絶やしてはいけないと思うのです。すぐに解決できない問題だからこそ、時間をかけてゆっくりと寄り添うように、見つめていこうと思っています。