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「広島や長崎は先の戦争終結までに大きすぎる犠牲をはらいました。戦後70年以上たったいまも被爆で苦しんでいる方が多くいる。この自民党の改憲草案は、すべての被爆者と私たち子孫の尊厳を踏みにじるどころか、存在自体までなかったことにしてしまうかのようなものです」

 

長崎県の公立小学校の講師で、自身も「被爆3世」である松永瑠衣子さん(24)は、こう言って顔を曇らせる。現在、東京「シアター・イメージフォーラム」で公開中の主演するドキュメンタリー映画『アトムとピース 瑠衣子 長崎の祈り』撮影終了後、政府が集団的自衛権などの安保法案成立に向けて積極的に動きだしたことを知る。しかも長崎県議会が昨年7月、開会中の国会での同法案成立を求める意見書を全国で初めて可決したことに「あきれた」と嘆く。

 

「原爆投下された長崎が“戦争法案”と呼ばれるものに真っ先に『「賛成」と言ったんです。『これでは誇りをもって長崎県民だと名乗れなくなってしまう』と感じました』

 

松永さんは今回の参院選を前にして、安倍首相が「争点ではない」と話題を逸らした「改憲」の出典となる自民党改憲案と、現行憲法を精読し、比較してみた。そこで抱いたのは、「もうだまされてはいけない。日本人は過ちを繰り返してはいけない」という思いだった。そのために−−。まずは、改憲案前文についての“疑問”を解説してくれた。

 

「現行憲法の前文は、とても素晴らしい言葉が紡がれています。まず、『政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうに……』と、戦争を起こすのは政府の責任と明言しています。ところが改憲案では、その責任がボカされてしまっています」

 

改憲案の該当箇所は「先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展」とあり、これでは「政府の責任」であるかどうかは不明だ。しかも現行憲法で「政府の行為」としている戦争を、天災である「大災害」と同列に並べている。

 

「これではまるで、『先の大戦を反省していません』としか私には聞こえないんです」

 

そして、現行憲法の前文に書かれている「恒久の平和を念願し」の一文にこそ重きを置いてほしいと訴える。

 

「祖母が被爆に関して口を閉ざしてきた一方、いまも語り部として活動している方もいらっしゃる。人生の先輩たちが命をかけて、私たち子孫が平和に暮らせるよう訴えてきたことは、現行の憲法前文に明記されている『恒久の平和』を守り続けること、誓い続けることと同じなんです」

 

しかしながら改憲案では、「恒久の」が削除されているとしたうえで次のように説く。

 

「さらに改憲案では『世界の平和と繁栄に貢献する』としています。これは政府がいう安保関連法の“積極的平和主義”という大義名分に似ています。集団的自衛権が行使されると、同盟国が傷つけられたときに日本も“戦争に参加する”ことに。さらに『国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り』という表記は“国防”を国民の義務としているかのようです。これでは現行憲法9条の『戦争の放棄』に反するし、前文の『恒久の平和』の誓いを破ることになります」

 

そして、それこそが被爆者や子孫たちの「尊厳を踏みにじること」と憤りつつ、松永さんは最後に決意を語る。

 

「私は『長崎を最後の被爆地に』という思いをこれからもつないでいきたい。毎日学校で接している子どもたちが、正しいことを正しいと言えるよう、平和憲法を守っていくことの大切さを、伝え続けていきたいと思っています」

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