10月からパート・アルバイトで働く約25万人が厚生年金の加入対象になったが、「本当に私たちが高齢者になったら年金はもらえるの?」という不安の声も少なくない。
それもそのはず。消えた年金記録、大赤字を作った保養施設など相次ぐ年金行政の不祥事に対して、根深い不信感を抱かされてきた。そしてまた、私たちの年金から積み立ててきた「年金積立金」が株価の大幅な下落でわずか1年3カ月の間で10.5兆円もの損失を出したというのだ。
そもそも「年金積立金」とは何なのか。ニッセイ基礎研究所年金総合リサーチセンターの中嶋邦夫主任研究員がこう説明する。
「公的年金は単年度の収支ではなく、約100年間という長期にわたって、収入と支出のバランスを保つように運営されています。財源は、現役世代の保険料に、全世代が負担する消費税などが組み合わされています。さらに国民年金と厚生年金の保険料の一部を『年金積立金』として積み立て、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用し、財源の足しにしています」
国民年金、厚生年金とともに、現役世代が支払う保険料は来年度まで上がるが、その後は上がらないことになっている。財源が不足しないように長期運用して高齢化に備えようというのだ。
GPIFの報告書によると、’15年度末の時点で運用資産額は134.7兆円。すでに、少子高齢化が進んでいるので、’05年から毎年5兆円程度取り崩され、年金の支払いに充てられている。
問題なのは、’15年度の損失額。5兆3,098億円と、リーマン・ショックを受けた’08年度以降では最大となった。さらに今年8月、「4〜6月期で約5兆2,342億円の損失を出した」と公表。昨年度1年分の赤字をわずか四半期で出してしまったというのだ。トータルの損失額は10.5兆円!大丈夫なの?
「投資は長期的に行っていて、短期的な値動きで一喜一憂する必要はなく、GPIF発足後のトータルの利益はいまだ40兆円もある」と、政府は反論するが、「赤字が続けば将来的に年金が減る可能性が出てくる」と懸念するのは、民進党の井坂信彦衆議院議員。
問題点は、法律で「運用は安全かつ効率的に行うこと」と定められていて、これまではリスクの少ない国債を中心に行われていた。ところが、’14年10月に投資方針の見直しを行ったのだ。
「国債などでの運用比率を60%から35%に引き下げました。その一方で、リスクが高い外国株と日本株への投資をそれぞれ25%まで引き上げました。’14年に行われた、5年に1度、年金の財政を見直す『財政検証』で、株式への投資を増やして利益を得なければ、今の水準で支払い続けることは難しいという結論が出たからです」(井坂議員・以下同)
ところが、’15年はギリシャ・ショックや中国株の暴落などの影響で、国内外の株価が下落したあおりを受けて、多額の損失につながった。株式投資はリスクが高い。恐怖のシナリオは、今後、株価がもっと下がること。「株式や債券は今すぐ市場で売るわけではないから、将来的に株価が上がれば利益が出る。即損失にはならない」と、GPIF側は言い訳しているが、「それは大きな間違い」と井坂議員は言う。
「投資家は先を見越して売買するので、じつは株価はGPIFが国内株を買う前に上がっていて、買い終わるころにはピークを迎えていたのです。それと同じことが、今度GPIFが株を売るときに起こります。GPIFは年金の財源を確保するため、今保有している株を売って現金化するときがきます。だいたい25年後です。投資家であれば当然、その前に手持ちの株を売却するでしょう。GPIFが株を売るころには株価は下がり、期待していたほどの運用益は出ない恐れがあります」
私たちの年金積立金が溶けていくなか、公務員の年金はプラスの運用成果を挙げているという。国家公務員共済組合連合会(KKR)の年金積立金の運用益は、’15年度下半期、248億円のプラスだった。
「昨年10月に共済組合と厚生年金は一元化になったはずですが、KKRの年金積立金のポートフォリオ(資産構成)は、国内債券が約62%、国内株式が15%のままなのです。なぜ、国内債券の比率をGPIFにそろえないのか、KKRに問いただしてみましたが、『債券の売却に時間がかかる』という答えでした」
国民の年金をギャンブル運用につぎ込んでいるのは公務員なのに、公務員の“虎の子のお金”を守っているのだとしたら、断じて許しがたい。総務省より、’15年度の独立行政法人役職員の報酬および給与水準が発表されたが、99法人中、理事長らの年間報酬が最も高かったのは、なんとGPIF。年収3,131万円で突出していたという。ここまでくると開いた口がふさがらない。