毎年、11月第3木曜日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日。フランス政府が定めたもので、今年は17日だ。しかし「過去最高といわれた’05年に匹敵する50年に1度の出来」(’09年)、「100年に1度の出来とされた’03年を超す21世紀最高の出来栄え」(’11年)など、毎年販売業者による大げさなキャッチコピーばかりが話題になり、おいしいのかどうかわからないという揶揄もある。
「あおり文句のわりにマズかった」という人、その結果「普通の赤ワインのほうがおいしいからボジョレーは飲まない」という人も……。そもそも、ボジョレー・ヌーヴォーとは、気軽に飲むべき新酒のことだ。JSA認定ワインエキスパートの資格を持つ小山久美子さんに詳しく聞いてみた。
「ヌーヴォーはフランス語で新しいという意味で、『新酒』のことを指します。フランス・ブルゴーニュ南部のボジョレー地区で造られたヌーヴォーだから、ボジョレー・ヌーヴォー。もともと、その年のぶどうの出来をチェックするためのワインで、ボジョレーにかぎらず、多くの地区で造られています。ぶどうの収穫祭に飲んだのが始まりとされていて、造り方も通常のワインとは異なり、その年の夏に収穫したぶどうで造ったフレッシュなお酒。旬を楽しむものなので、大勢でワイワイ飲むのにぴったりなんです」
ヌーヴォーはボジョレー地区だけではなく世界中の産地で造られ、最近では日本でも山梨ヌーヴォーなどが好評だという。そもそも、フランスの一地方の地酒であるボジョレー・ヌーヴォーが日本にまで出回るようになったのは、’70年代に日本の輸入業者が醸造家のジョルジュ・デュブッフと組んで行ったプロモーションが大成功したから。
時差の関係上、日本はフランス本国より早く解禁日を迎えることもあり、カウントダウンのイベントなどでバブル期に一気に盛り上がった。
「これだけ広く認知されたのは、解禁日のおかげで限定感が高まったのもありますが、軽やかな味わいが日本人の味覚に合っていたからでしょう。ボジョレー・ヌーヴォーは通常より早く発酵させるマセラシオン・カルボニックという特殊な製法で造られています。発酵の際にバナナやいちごのような甘い香りが出て、フルーティで軽やかなワインに仕上がります。渋味の成分となるタンニンも少ない。普通の赤ワインとは異なり、じっくり楽しむものではありません。用途が違うワインなんです」
今年のボジョレー地区は雨が少なく暑かったため、果実味が強く、味がギュッと凝縮されているという。生産者も満足の出来だとか。