「展示のために私が制作したミニチュアについて、《ディテールがすごい!》と投稿してくれたツイートには《お気に入り》がたくさんつきました」
とある部屋を再現した3つのミニチュア。よく見るとゴミ屋敷のように床面をビニール袋が占拠して虫がはっていたり、布団が赤黒く染まっていたり、湯船からはどす黒い液体がこぼれていたり……かなり衝撃的な描写だ。
これらを制作したのは小島美羽さん(25)。彼女は遺品整理クリーンサービスという会社の社員で、「遺品整理・特殊清掃」の現場スタッフ。遺品整理とは、自宅やマンション、アパートなどで亡くなった人の遺品のうち、金品や重要書類などを保全し、不要物を撤去する業務。特殊清掃とは、死後、発見が遅れた遺体によって汚れた室内の清掃・原状回復を行う業務だ。
8月23〜25日に都内で行われた葬儀業界の商品展示会「エンディング産業展」に出展する際、同社のブースにこのミニチュアを置いたところ、多くの人が足を止めたという。写真が掲載されたツイートは1万5000リツイートを超えるなど、その反響は大きい。
「独居の方が突然亡くなると、ご家族やご近所と疎遠の場合、発見が遅れることがあります。夏場なら死後1週間もすれば腐敗して、畳や床が人の形のシミになってしまうんです。どんな状況でご遺体が見つかったのかを、リアルにお伝えしたいと思いました」
真摯にこちらを見つめて話す小島さんは、勤務3年目。2メートル近くあるクローゼットをひとりで運ぶこともある。女性スタッフは2割程度という業界に、彼女は志願して飛び込んだ。
「先輩から、『いちばんの衝撃は死臭』と言われていましたが、経験のため最初の現場ではガスマスクなしで嗅いでみました。整理や清掃がすべて終わって、最後にお清めの塩をまいて『天国に行けますように』とお祈りしたら、後ろから髪の毛をつかまれる感覚を経験したり……。よく、『イヤじゃない!?』と聞かれますが、不思議と怖くないんです。どんなに腐ってしまっても同じ人間。私は亡くなった方の家族のつもりで清掃に入りますから」
彼女が制作したミニチュアには、現場での経験をもとにしたメッセージが込められている。
「ゴミ屋敷のミニチュアでは、見やすいように、実際の現場よりもゴミの数は減らしました。ゴミ屋敷の主には、生きる気力を失ったり、脱力してしまった方が多い。お年寄りだけでなく、『失恋』とか『リストラ』とか、理由はさまざまですが、じつは誰でも隣り合わせですよね。人ごとのように思わないでほしいんです」
ところで、このミニチュアには、ひときわ大きい数匹のゴキブリが登場している。
「実際、ゴミ屋敷にいるゴキブリは、デカいんです! ある現場ではクロゴキブリ1,000匹に囲まれちゃったこともあります。さすがにこれは、トラウマになりました」
ミニチュア作りは続けていきたいという小島さん。次回の展示会に出す作品のテーマと構想はもうできている。
「9月は一年中で自殺率がいちばん上がりますが、中学生や高校生をはじめ、若者が多いんです。特殊清掃でも、若い方が自殺で亡くなった現場はじつに多く、それはもう、やりきれない瞬間です。来年の展示会では若い方たちにも見ていただきたいです。あっ、25歳の私が言うのもなんですが……」
命の大切さをつないでいくため、今日も小島さんは遺品整理の現場に向かう。