原発に頼らない、再生可能エネルギーだけで作られた電気の地産地消を進める「ふくしま市民発電」は、’12年12月、相馬市に設立された。市内にある接骨院やすし店など店舗ビルの屋上4カ所を借りて、70キロワットの太陽光発電からスタート。代表理事の新妻香織さん(54)は言う。

 

「募金や助成金、震災後に亡くなった母が残してくれた自動車メーカーの株券を担保に借金をして、なんとか立ち上げることができました。まだ小さい事業ですが、相馬市だけでなく、福島を変えるきっかけにしたいです」

 

「ふくしま市民発電」は会費や1口千円からの募金を呼びかけ、事業を展開している。彼女を急き立てるのは、原発事故への後悔の念だった。

 

「学生時代から、原発の危険性を知っていたんです。’07年ごろ、福島第1原発がプルサーマルを導入するかどうかと議論が起こったときに『県民の意見を聞く会』のメンバーに選ばれた私は『原発を止めましょう』と訴えていたんですが、それもかなわず、その原発が爆発してしまったんです。次世代に対して申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

 

子供たちに、よりよい未来を残したい――。新妻さんには、実績がある。大学卒業後、JTBに入社。30歳のときに会社をやめ、5年かけてアフリカ28カ国を旅した。

 

「世界遺産の岩窟教会があるエチオピアのラリベラを訪れたときに、森が無計画に伐採されて丸裸になった大地を見て愕然としたんです。帰国後、エチオピアに1本でもいいから木を植えようと、そのとき出会ったふくろうの名前をとって『フー太郎の森基金』という団体をつくりました」

 

’98年から始まった「基金」は全国から1口千円の寄付を募り、現在までに270万本の木が植えられ、赤茶けたエチオピアの大地に青々とした森が再生している。

 

「私たちはただ、淡々と植林をしただけ。それでもそこに住む子供たちは環境に対する意識が大きく変わりました。自分たちの土地に対する自身や誇りが生まれてきたんです。そのときに感じたのは“心に種をまく”ことの大切さ。私たちができるのはせいぜい種まき程度。あとは子供たちが、その種をどう育て、自分たちの時代に花咲かせるのかなんです」

 

エチオピアの大地に木を植えて緑にしたことで、そこで暮らす人たちも変えた。同じように相馬市の家々の屋根に、銀色に輝く太陽光パネルを敷き詰めることができれば、何かが変わるのではないか、と新妻さんは期待する。

 

「希望を少しづつ根づかせたいんです。そしてクリーンなエネルギーだけの、世界でもっとも環境に優しい福島にしていきたいんです。この過酷な時代にどんな思いで大人たちが生きたのか、その『志』だけでも伝わればいいなと思っています」

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