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『東京電力福島第一原子力発電所 1月12日ライブカメラより』

 

「経産省は、本来、東電が支払うべき福島第一原発事故の処理費用を“電気代”に上乗せできるシステムをつくり、国民に支払わせようとしています。これを許してしまえば、今後、国民が支払う原発事故処理費用は、青天井になる可能性があります」

 

そう訴えるのは、立命館大学教授で、国のエネルギー政策や原発の発電コストを研究する大島堅一氏だ。

 

経産省は昨年12月、国民に非公開で、原子力を推進する財界人などで話し合う「東京電力改革・1F問題委員会」を開催。そのなかで、廃炉や賠償費用など、福島第一原発事故の処理費用が、12年に試算した11兆円から、倍の21.5兆円に増えるという試算を示した。

 

それに合わせて、政府は昨年末、事故処理費用を国民の電気料金に上乗せすることを閣議決定した。

 

その上乗せ方法は、あまりにご都合主義でおかしな論理のとんでもないものだった。

 

「政府が試算した電気料金の値上げ額、年216円も事故処理費用の一部を上乗せしたまやかしにすぎない」と語る大島氏に、国民が負担することになる電気料金を試算してもらった(別表参照)。その上乗せ方法と合わせて、検証してみよう。

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国民負担策その1:「“過去分”の賠償金を45年前にさかのぼって徴収」

 

経産省は、「原発事故に備えて、以前から賠償費用を積み立てておくべきだった」として、次のような突拍子もない案をひねり出した。

 

「日本に原子力発電所ができた66年から、事故が起きるまでの45年分をさかのぼり、“過去分”の賠償費用として、電気料金のうち“託送料金”と呼ばれる送電線使用料に上乗せして、2020年から40年かけて電力利用者から回収する」というのだ。

 

上乗せされるのは、現在想定される賠償総額7.9兆円のうち、“過去分”の賠償金相当額2.4兆円。

 

前出の大島氏は、

 

「これはまるで、40年前に食事をしたレストランから、『食事代が不足していたので負担してください』と、請求書が届くようなもの。そもそも政府は、『原発は安全だ』と言い続けていたはず」

と、その理不尽さを指摘する。

 

経産省は、福島原発事故費用を電気料金に上乗せする負担額をこの“過去分”についてしか試算していない。しかもその額は「月平均で電気料金が、わずか18円、年216円値上がりするだけ」という。しかし大島氏は、原発事故後、その事故処理費用で電気料金に上乗せされているものがほかにもまだあるという。

 

「廃炉・汚染水費用や核燃料汚染物質を貯蔵する費用などをあわせると福島原発事故の処理分だけで、現在でも総額3,009億円、上乗せが増える20年以降では5,640億円にのぼります。3人家族で平均的な電力使用量の家庭で試算すると、現在、事故後から電気料金が1,689円の値上げがされている。20年以降はさらに今よりも少なくとも年間1,500円値上がりし、年額3,000円以上の上乗せになる」

 

と大島氏は試算する。

 

さらに、大島氏の試算によると、核燃料再処理費用や高速炉もんじゅの開発費用など原発全体にかかわる費用を合わせると、現在でも4494円、20年以降は年間約6千円も電気料金に上乗せされることになる。

 

政府試算のごまかしは、上乗せ料金についてだけではない。

 

“過去分”の賠償費用を上乗せされるのが、託送料金であることにも、大きな問題があるという。消費者生活アドバイザーの大石美奈子氏は、こう主張する。

 

「託送料金とは、電力を送配電することにかかる料金です。なのにまったく関係のない賠償費用がそこに上乗せされるのは問題です。事故処理費用は、透明性が担保できる税金で徴収すべきでしょう」

 

税金なら上げるにしても国会の承認が必要だが、託送料金に上乗せする場合は、電力会社や経産省の裁量だけで自由に額を決定できるという。

 

「最初は少しの値上げでも、原発事故の処理費用が増えた場合、あとから国民が知らないところでこっそり上乗せされ、気づいたら電気料金が驚くほど上がる可能性もあります」(大石氏)

 

国民負担策その2:「8兆円に膨らむ廃炉費用を送配電の合理化で捻出」

 

8兆円かかるといわれる廃炉費用だが大島氏は、そのような額ではすまないだろうと、こう指摘する。

 

「廃炉でいうと、“デブリ”と呼ばれる溶けた核燃料が、事故炉の底でどういう状態になっているかもわからないし、取り出し方法も決まっていない。だから、廃炉費用はこれからいくらかかるかわかりません」

 

前出の大石氏は、今回の国民負担策について検証する政府の委員会(電力システム改革貫徹のための政策小委員会)の委員を務めた経験から、廃炉費用の電気代上乗せの経緯について、次のように曝露する。

 

「実は経産省は当初、福島原発の廃炉費用8兆円も、上乗せ分を自由にコントロールできる託送料金に乗せするつもりだったんです。しかし世論の反発が大きいと思ったのか、それは見送られました」

 

しかし、経産省は次のような苦肉の策を打ち出した。

 

「本来、電力事業者が合理化など経営努力により、一定の利益が生じた場合、託送料金を値下げします。つまり電気料金を値下げして利用者に還元することになっているのです。しかし経産省は、『東電は値下げすると廃炉費用が捻出できない』として、値下げするべき分を基金として積み立て、廃炉費用にまわすというウルトラCを考え出した。本来値下げされるべきものを下げないで自分の事業に使うのですから実質、電気利用者の負担です」(大石氏)

 

内実が見えにくい託送料金のなかから基金を積み立てるなら、これも電力会社や経産省の裁量で積立額をコントロールできるのではないか。

 

事故処理費用を電気代に上乗せしようという政府のトンデモ政策。これを止めるためにはどうすればいいだろう。

 

「国民負担を強いる前に、まずやるべきことがあります」

 

と語るのは元経産省官僚の古賀茂明氏だ。

 

「国民が負担する事故処理費用の一部が、東電にお金を貸しているだけで年間何億円もの利息を得る銀行や、原発事故後に底値で東電株を買った株主に流れています。東電をJAJのようにつぶれた会社として扱って借金を棒引きするなどしたら5兆円は捻出できる。その分、国民の負担は軽減できます」(古賀氏)

 

破綻処理や解体までなかなか踏み込めない現状だが、それでも私たち一人一人が、注意深く政府や東電の動向に目を光らせ、正しい選択をする以外にない。

 

非常にわかりにくいシステムだが、放っておけば半永久的に電力料金が上がり続ける、このような傍若無人なふるまいを許さないためには、私たち消費者がこのとんでもない負担策を忘れないようにしないとならない。

 

取材・文/和田秀子

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