トランプ大統領の主要な支持層と言われる、白人貧困層。「ヒルビリー」とも言われる彼らの実態について書かれた本が、アメリカで売れ続けています。その邦訳版の刊行にさきがけ、本文の一部を少しずつ紹介していきます。

 

 

私はミドルタウン(注:著者の育った町)のバーで会った古い知り合いから、早起きするのがつらいから、最近仕事を辞めたと聞かされたことがある。その後、彼がフェイスブックに「オバマ・エコノミー」への不満と、自分の人生へのその影響について投稿したのを目にした。

 

オバマ・エコノミーが多くの人に影響を与えたことは否定しないが、彼がそのなかに含まれないことはあきらかだ。いまの状態は、彼自身の行動の結果である。生活を向上させたいのなら、よい選択をするしかない。だが、よい選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるをえない環境に、身を置く必要がある。白人の労働者階層には、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかもそれは日増しに強まっている。

 

現代の保守主義者(私もその一人だ)たちは、保守主義者のなかで最大の割合を占める層が抱える問題点をとらえきれていない、という現実がここにはある。

保守主義者たちの言動は、社会への参加を促すのではなく、ある種の疎外感を煽る。結果として、ミドルタウンの多くの住民から、やる気を奪っているのである。

 

私は、一部の友人が社会的な成功を収める一方で、ミドルタウンの黒い誘惑につかまり、早すぎる結婚、薬物依存症、投獄といった、最悪の状態に陥る友人もたくさん見てきた。将来の成功や失敗は、「自分自身の未来をどのように思い描いているか」にかかっているはずだ。ところが、「敗者であることは、自分の責任ではなく、政府のせいだ」という考え方が広まりつつあるのだ。

 

たとえば私の父は、懸命に働くことの価値をけっして否定するような人ではなかったが、それでも、生活を向上させるはっきりとした道があるということを、信用していなかった。私がイェール大学のロースクールに進学すると知ったとき、父は私に、「黒人かリベラルのふりをしたのか」と言ったものだった。白人労働者の将来に対する期待値は、これほどまでに低いのである。こうした態度が広まっていることを考えれば、生活をよくするために働こうという人が少なくなっても、なんら不思議ではない。

 

民間助成財団ピュー・チャリタブル・トラストが支援する「エコノミック・モビリティ・プロジェクト」で、アメリカ人は、自分たちの生活が向上する可能性をどのように評価しているかについて、調査が実施された。その結果は衝撃的なものだった。白人の労働者階層は、ほかのどんな集団よりも悲観的だったのである。

 

黒人、ラテンアメリカ系住民、そして大学で教育を受けた白人は、子どもの世代が自分たちよりも経済的に豊かになると答えた人が、優に半数を超えたのに対して、労働者階層の白人の場合は、44パーセントにとどまった。また驚くべきことに、白人労働者の42パーセントが、親の世代よりも自分たちのほうが貧しくなっていると回答したのである(これはほかの集団と比べても飛び抜けて高い割合だ)。

 

 

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単行本『ヒルビリー・エレジー』

著者:J.D.ヴァンス

邦訳:関根光宏・山田文

価格:1,800円+税

出版社:光文社

発売日:2017年3月14日(火)予定

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