4月下旬。東北・宮城は桜の満開を迎えようとしていた。陸上自衛隊大和駐屯地から10キロほど車で走ると、山あいの深い林の中にだだっ広い平地と草原がぽっかりと現れる。王城寺原演習場だ。

 

そこで、陸自専用の四駆に乗り換え、演習場内のデコボコ道を進む。ときおり銃声が聞こえてくる。いままさに演習の真っただ中のようだ。四駆で10分ほど走ったあたりだろうか。迷彩色のテントが目に入った。中に入ると、迷彩柄のユニホームとヘルメットの女性がこちらを振り向いて直立。

 

「ようこそ、遠いところまで」

 

キビキビとした声は女性だが、顔は服装と同じく迷彩色のメークがほどこされている。黄、黒、緑の太いラインが左斜めに顔を縦断していて、その表情は全く読めない。名刺にはこうあった。

 

《陸上自衛隊 第6後方支援連隊連隊長 1等陸佐 澤村満称子》

 

澤村さん(46)は、山形、宮城、福島3県の防衛、警備、災害派遣に従事する第6後方支援連隊約700人のトップに立つ。陸上自衛隊初の女性連隊長だ。昨年8月、現職に就任。階級の「1等陸佐」は、国際的には「大佐」に当たる。

 

王城寺原での演習中は、この連隊長専用のテントを根城に、作戦を立て、指示を下し、演習を見守る。テント内には、寝袋と見紛う、担架ほどの大きさの簡易ベッドが置かれていた。連隊長といえども、過酷な環境に身を置く仕事であることは間違いない。

 

「自衛隊は男女平等の組織で、能力主義だと思います。よく『女性自衛官初』といわれますが、たまたま私が女性だったというだけのこと。女性ということがキャッチーだということはわかりますが、そこまで騒いでいただけるのは、ちょっと不思議です」(澤村さん・以下同)

 

取材のたびに名前の上につけられる“初”という冠は、あまり本意ではないらしい。女性自衛官の数は陸自でおよそ8,800人(4月現在)。

 

「女性比は全体の約8%です。ただ、わが第6支援連隊はそれよりやや高く、およそ80人で12%ほどです」

 

澤村さんの連隊の主な任務は、器材の整備や補給、輸送、物資の補給・連絡などの兵站や衛生支援など。災害派遣の現場では、避難所の入浴支援等の生活支援も任される部隊だ。生活の細かいところまで気を配れる女性が多いというのも頷ける。

 

それにしても、顔にまで迷彩メークをするなんて。抵抗はないのだろうか?

 

「このメークは『偽装』といいます。演習で山に入ると、普通にしますよ。人間の顔は、自然界では白っぽく浮くので、わざと汚して目立たなくするんですね。素材はドーラン。舞台で使うメーク道具と同じです。クレンジングで落としますので」

 

肌荒れなどは? と余計な心配をしてしまう。

 

「ハハハッ。美肌は任務じゃありませんので。最近のものは素肌のケア成分が入っているものがありますし。まぁ、長いことつけていれば、肌荒れしますが、つけて、せいぜい1週間ですよ」

 

顔の迷彩柄が崩れて、明るく笑う。白い歯がこぼれた。

 

澤村さんは’71年10月3日、東京生まれ。’95年、幹部候補生学校に入校。’96年、第13後方支援連隊補給隊から、そのキャリアをスタートした。

 

「女性であろうと男性であろうと関係ないんです。われわれの組織は何より『階級と職』に敬意が払われる。そして、その役割を全うすることを期待されているんです」

 

東日本大震災では、澤村さんは仙台の司令部に派遣され、米軍関連のプレス担当として、被災地を歩いた。

 

「いまだに東日本の映像を見るとグッときてしまう。人間があんなに悲しむ姿を見たのは、初めてでした」

 

その5年後の’16年には、熊本地震が発生。

 

「被災者の命を守り、助けるのは、国の威信にかけて向かう隊員の任務です。それと同時に、救助する隊員も安全に任務を遂行することが鉄則です。東日本のときは、被災者の人たちに感情移入しすぎましたが、熊本のときは、幹部として、冷静に、隊員たちの安全まで目配りして、組織のシステムを作ることを考えるようになりました」

 

5月上旬、第6後方支援連隊の本拠地・山形県東根市の神町駐屯地を訪ねた。

 

その日、月1回の昼礼があった。午後1時、連隊の隊員たちが一斉に大型トラックが並ぶ広場に集まってきて、整列。「連隊長に敬礼」の号令とともに、200人余りの隊員が、一斉に敬礼。その姿は壮観だ。

 

迷彩柄のユニホーム姿の澤村さんは、引き締まった表情で表彰状を読み上げる。

 

「認定証。チャレンジゼロ活動、無事故達成。16回目の無事故365日の目標を達成したことを表彰する。頑張りました」

 

隊員に、表彰状を手渡すとき、柔らかい表情になった。雲の上の存在の連隊長が一瞬、見せる優しいまなざしは、隊員たちの心に響く。続く訓示が印象に残った。

 

「皆さんに意識していただきたいのは、自衛隊員は常に国民の注視があるということです。99%の自衛官は正しい行動を取っていると思います。しかし、1%の自衛官の誤った行動で、世間の目は自衛隊全体に厳しく向けられてしまうんです」

 

国会で、自衛隊の日報問題が浮上する中、澤村さんは隊員一人一人の自覚を促した。

 

「私たちは現場で信頼を積み上げていくしかありません。山形の方々は温かく応援してくれます。『今、自衛隊はいろいろ言われるだろうけれど、頑張ってね』と。そういう方々の信頼を裏切ってはいけないのが自衛官です」

 

連隊長になっても偉ぶることなく、澤村さんは、後輩の女性隊員の相談に乗り、積極的に話しかけていく。

 

「自分に戒めていることは、権力におぼれないこと。困ったときに相談できる、この人に言ったら、助けてくれる上司でありたいと思っています」