「親や配偶者が乗るクルマに、あちこちぶつけた跡があったら要注意です。認知機能が低下している可能性があるので、すぐ検査を」

 

そう警鐘を鳴らすのは「認知症の人と家族の会」(以下・家族の会)東京都支部代表・大野教子さん。家族の会には、認知症の家族から多くの電話相談が寄せられる。先日は、こんな相談があった。

 

「離れて住んでいる息子さんのところに、世話をお願いしているケアマネさんから『最近、お父さまのクルマがボコボコです。もしかしたら、認知症かもしれません』という連絡が入ったそうです。病院に連れて行くと認知症と判明。ですがプライドの高いお父さまで、運転免許を取り上げるというと逆上して……。どうしたらいいか途方に暮れていらしたのです」

 

認知症と診断されていなくても、年齢とともに認知機能は低下してくるので、いつ死亡事故を起こして“加害者”になるかわからない。実際に、75歳以上のドライバーの死亡事故件数は、75歳未満全体と比較して、免許人口10万人当たりで2倍以上多く発生しているのだ(平成29年交通安全白書)。

 

こうした状況を受け、昨年3月、75歳以上のドライバーの“認知機能検査”を強化した改正道路交通法が施行された。

 

警視庁が6月に発表した統計では、3月末までの1年間に検査を受けた210万5,477人のうち、「認知症の恐れ」があるドライバーは5万7,099人。そのうち1,892人は医師から「認知症」と診断され、免許取消し・停止処分を受けたが、9,563人は、今後、認知症になる恐れがある“認知症予備群”で、半年後に再受診はあるものの、今もハンドルを握り続けている。

 

「事故を起こして、相手にケガを負わせたり死亡させたりすると犯罪者になります。相手にも大きな迷惑をかけ、双方が不幸になりますから絶対に事故を起こさない工夫が必要です」(大野さん・以下同)

 

そこで今回、大野さんに「認知症が原因の事故を防ぐために、今すぐできること」を教えてもらった。

 

「事故予防のいちばんの方法は、運転しないこと。『家族の会』では、運転に不安が出てきたら自主的に免許を返納するよう働きかけています」

 

ただし、家族が頭ごなしに「危ないからやめて!」と言うと、かえって意固地になってしまう。

 

「権威に弱い方も多いので、医師や警察の方から説得してもらうのも手。またよくクルマをぶつけているという場合は、修理に出すときに修理会社の方から『乗らないほうがいい』と言ってもらうと素直に受け入れる方も多いですよ」

 

免許を自主返納することで得られるメリットを伝えるのもいい。

 

「地方はクルマがないと不便なので『免許返納=自由が奪われる』と思いがちですが、免許証の代わりに発行される運転経歴証明書を見せると、自治体によってはタクシーや鉄道、バスなどが割引になります。また運転を気にせずお酒を飲めますし、飲食店で割引サービスを受けられるなどの特典も」

 

転ばぬ先のつえとして、早めに自動運転機能付きのクルマへ乗り換えるのもアリだろう。

 

「またドライブレコーダーを付けておくこと。ぶつけられた場合の検証もさることながら、映像を見て自分の運転を確認する意味もあるんです」

 

早めの受診は認知症にも有効だ。

 

「今は認知症の進行を抑える薬もあるので、早期発見したほうが、長く生活の質を保つことができます。仮に認知症になっても悲観する時代ではなく、むしろ積極的に“カミングアウト”することで地域のサポートが得られます。最近は、地域で見守りの体制を作っているところが増えていますから」