相続に関する法制度が、今年1月から段階的に変わっている。じつに40年ぶりとなる大改正により、高齢化社会に対応したルールが順次導入されていくことに。相続問題に詳しい行政書士の竹内豊さんは“妻の権利の拡大”に注目する。
「夫の死後、妻が1人で生きていく時間は長いので、今回は“残された妻”を保護するための改正が多いのが特徴です。自宅に住み続けるための権利や、介護の貢献によって相続人に金銭を請求できる権利など、妻の権利が広がることになります」
残された家族が相続をめぐって争わないために、「遺言書」を書いておきたいが、「家族が仲よしだから」「面倒だから家族に任せる」などと書かない人が多い。相続コーディネーターで、「夢相続」代表の曽根恵子さんは次のように語る。
「夫が亡くなって妻と子どもたちが相続するときには、妻を中心に意見がまとまりやすいのですが、子ども同士で親の財産を相続するときは、ささいなことでもトラブルになりがちです。それを防ぐためにも、遺言書を残すなどの対策が必要になります」
一般的によく利用される遺言には「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2つがあり、公証役場に足を運んで、口述しながら公証人が作成する「公正証書遺言」は、遺産の規模によって金額は異なるが、専門家のアドバイスを受けてから作成して、そのまま預かってもらうと20万円程度の費用がかかってしまう。
これに対して「自筆証書遺言」は、作成代はゼロだが、財産目録のすべてを直筆で書くうえ、自分で保管しなければならないので、偽造や破棄、隠蔽などの恐れがあり、「遺言を書いても執行されないで、遺品回収業者がタンスの引出しから見つけた」などという話もあるほど。今年1月13日からこの「自筆証書遺言」のハードルが下げられた。
「遺言書の添付する財産目録だけは手書きで作成しなくてもよくなり、パソコンの作成や、通帳のコピーも添付できるようになりました。1枚ずつ署名と押印は必要ですが、高齢者たちにとって作成の手間が大幅に省けるようになったのは大きいです」(曽根さん・以下同)
父親の遺産を子どもたちで相続する際、「法定相続分どおりに分けるのは不公平だ」と、考える場合がある。たとえば、《長年同居して父の身の回りの世話をし続けてきた長女夫婦に自宅3,000万円と預貯金1,000万円を残して、遠方に住む長男は生命保険金の受取人に指名しておきたい》、というときには、遺言書が必要になってくる。
「特にきょうだい同士で離れて暮らす家族は『親をそそのかして自分の都合のいいように遺言を書かせた』といって、離れて暮らすきょうだいからクレームがつくことも。親の看取り方を話し合う過程で、亡くなったあとの話をするなど、ふだんからきょうだい間で話し合っておくといいでしょう」
また「自筆証書遺言」を、法務局で預かる制度が来年7月10日からスタートする。財産を残す人の意思を確実に反映するためにも併せて活用したい。