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全国776ある公立病院で、黒字収支となったのはわずか20。そこまで多くの病院が赤字にあえぐウラには、医師たちの“コスト意識”の低さがあった——。

 

「公立病院には母子医療や精神医療、救急医療など、不採算になりがちな診療科も担う使命がありますが、いっぽうで“赤字経営は当たり前”という思いが根強くあります」

 

そう語るのは、5つの府立病院が地方独立行政法人化されたことによって設立された大阪府立病院機構の理事長を務める遠山正彌さんだ。

 

《県立河北病院、外来の6科廃止 救急縮小を検討》

 

6月3日付の山形新聞で報じられた地元病院の危機。記事では河北病院の14ある診療科のうち、不採算である小児科、皮膚科、脳神経外科などの廃止が検討され、地元住民の不安の声があることを伝えている。

 

公立病院は、たとえ多額の赤字が出ても、税金が投入され“黒字化”されるため、経営状態が見えづらい。そこで経営状態を“見える化”しているのが、ウェブサイト「病院情報局」が発表する「純医業収支ランキング」だ。

 

同サイトを運営するケアレビュー代表の加藤良平さんが解説する。

 

「『純医業収支』とは弊社の造語。通常、公立病院の“収入”として計上される一般会計負担金(税金など)を除外することで、公立病院が税金なしの公立病院だけの収入で、どれだけ自立できているのかを明らかにしています」

 

全国776の公立病院で、黒字収支となったのは、わずか20。過疎地域だけでなく、東京都内の松沢病院は58億円の赤字で“全国ワースト級”。

 

さらに、東北では、前出の河北病院より低い収支率を計上した病院は36にも。河北病院の収支率マイナス43%に対し、福島県立大野病院はなんとマイナス1,395%——。

 

被災地の病院は苦しい状況とはいえ、全国的な赤字を示すこれらの数字を、前出の遠山さんが分析する。

 

「公立病院の一番の問題は、職員の意識。基本的に公務員なので、赤字が出ても、税金が投入されるから、自分の財布は痛まない。私が理事長に就任したときも、夜の12時近くになれば、残業代を増やすために日付が変わるのを待って、タクシーチケットをもらって帰る医者がいるのは当たり前。海外出張でも、いちばん高いホテルに泊まるという風潮がありました」

 

公立病院に勤務経験のある、医師の山本佳奈さんもこう振り返る。

 

「医療機器を購入するとき、民間の病院であればいくつかの業者に見積もりを取って競わせます。しかし、公立ではそういう意識は低く、ほとんど言い値だったんです」

 

自分の診療科のベッドが埋まっていれば、他科のベッドを調整することなく入院を断ってしまう。患者目線を失った“放漫”な経営に、遠山さんも危機感を抱いたという。

 

「たとえば国際がんセンター(大阪市)は、現在は紹介状がなくても、たとえ駆け込みでも受診できるように改善しました。救急外来のお断りもしないようにしています」

 

医師の個人的な都合で入院を断ることがないよう、ベッドコントロールは、医師や看護師ではなく、地域医療連携室が担当することにした。

 

「まだ部長クラスまでですが、年功序列ではなく、各病院ごとの経営状態によって給与を変えています。真面目に働いた人が、きちんと報酬を得られるようにすれば、モチベーションも上がり、患者に寄り添った診療を可能にすることができます」

 

こうした施策の結果、大阪府立病院機構の5病院で130億円あった赤字を、約半分まで減らすことができたという。

 

税金濫用の経営体制を病院が改めなければ、私たちの身近な公立病院は、どんどん消えていってしまう。

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