「身分を証明できるものは? そのお金は何に使いますか?」。キチンと答えたはずなのに、警察を呼ばれた……。銀行のそんな対応に、高齢者からは多くの不満の声が!
「高齢者が、金融機関に預金している自分のお金を下ろそうとしたら、突然警察を呼ばれた――。そんなケースが全国各地で激増しています。高齢者が高額預金を引き出そうとしている=詐欺被害に遭っていると疑う。銀行員が、あまりにもそういった“機械的”なマニュアルに沿って対応することで、『自分のお金も自由に下ろせないのか』と訴える高齢者は多い。そのような現象を、私は“銀行ハラスメント”と呼んでいます」
こう語るのは、立憲民主党の衆議院議員・末松義規氏。高齢者が銀行窓口で高額(100万円以上)の現金を引き出す際、行員に個人情報やお金の使い道などを根掘り葉掘り聞かれたうえ、警察に通報されるケースが増えているのだ。
民間金融機関を監督する金融庁によると、近年、オレオレ詐欺などをはじめとした特殊詐欺の件数増加に伴い、警察庁から金融機関に対し、被害防止のための協力要請が出ているという。
「本人確認、使途の確認などだけでなく、顧客の年齢、出金限度額を決めて、それを超える場合は、警察に通報してくださいという要請をしています。一律のルールというものはなく、各金融機関が独自で一定の基準を定めています」(金融庁銀行第一課)
警察庁によると、特殊詐欺対策には年々力を入れており、被害総額はここ5年で減少の一途をたどっている。さらに、金融機関による前述のような“働きかけ”もあってか、’18年では「143億円の被害を阻止」できたと発表しているが……。
「そのいっぽうで、銀行で高額預金を引き出す際に“ハラスメント”を受け、高齢者が不快な思いをしたケースは、金額にするとその数倍、数百億円以上あると私は考えています」(末松議員)
金融機関は、実際にどのような対策を設けているのか。本誌が、メガバンクの三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、そしてゆうちょ銀行に特殊詐欺対策について聞いたところ、4行とも全て「対策は講じている」と回答。
しかし、「○○歳以上で、○○万円以上引き出す場合」という具体的な内容については、防犯上の観点から「差し控える」と、各行ほぼ同様の回答であった。
いくら振り込め詐欺の防止とはいえ、70代、80代でも冠婚葬祭や介護、家の増改築などでまとまったお金が必要なときもあるはずだが、自治体が地元警察と連携し、「全件通報」という基準を設けている地域が多いのも事実。
この問題を、昨年12月の国会で提起した末松議員は、自身の体験談を踏まえてこう振り返る。
「3年前、まとまった費用が数百万円必要となり、妻と一緒に東京・銀座のM銀行にお金を下ろしに行ったときのこと。妻の口座から引き出す手はずだったので、私はロビーで待ち、妻が窓口に行って手続きをしました。すると女性行員が、“引き出せない”と。妻は前日に金額を連絡し、当日は身分証明書、印鑑そして通帳・カードもあるのになぜ? と聞くと、“警察を呼びますけどいいですか”と言われたんです」
すぐに、築地署から3人の警察官がやってきて、多くの客がいる前で、末松議員の奥さんに対する事情聴取が始まったという。
「私もすぐに駆け付けて、何か問題でもあったのか? と尋ねたら、“オレオレ詐欺の可能性がある”と言うんです。当時、妻は58歳でそんなに高齢なわけでもないのに、しつこく疑い続けられ……。私と妻が何を言っても信用してくれない。それで私は名刺を出したんです。すると態度が急に変わった。もし、この場に妻しかいなかったら、そのお金が下ろせなかったかもしれない。これはやりすぎだろうと思いましたね」
聞こえてきたのは、50代でも“銀行ハラスメント”を受ける可能性がある、という現状ーー。さらに末松議員は、ある銀行関係者から聞いたという内部情報を明かす。
「いま、大口の預金は簡単に下ろせない。ある銀行はこれを利用して、“高齢の顧客の定期預金をできるだけ解約させるな”“預金をできるだけ引き出させるな”という内々の指示を出しているそうです」
まるで銀行が行っている特殊詐欺対策は、犯罪抑止を“建て前”に、顧客の預金流出を防ぐことを追求しているようにも聞こえる。
では、高齢の親が高額預金をスムーズに引き出す方法はあるのだろうか。そのひとつとして、「代理人カードで子どもが下ろす」という方法がある。
「代理人カード」とは、親と生計を一にしている親族が、親本人の口座からお金を引き出せるキャッシュカード。金融機関によって作成のルールは異なるが、基本的にカード作成の際は、口座を持っている親本人を同伴して窓口に出向くことが必要だ。
一般的に、1日の出金限度額は50万円。数百万円の場合、日を分けて下ろす必要がある。
親がたとえ元気であっても、“年寄りだから”という理由だけで高額預金が下ろせない時代。お金の管理方法については、いまのうちに話し合っておこう。