「日本では、年間で3万人もの方が“孤独死”しているといわれています。誰にも看取られず自宅で亡くなり、死後、発見されるまでに日数が経過してしまった状況が孤独死。でも、メディアで取り上げられる場合、現場の写真はモザイク処理をされ、大事な『現実』が隠されてしまいます。年間でおよそ150件の孤独死の特殊清掃に出動している私は、『孤独死は誰にも起こりうるものだ』ということを伝えたくて、現場のミニチュアづくりを始めたんです」
こう話すのは、「遺品整理クリーンサービス」所属の遺品整理人・小島美羽さん(27)。遺品整理とは、自宅やマンション、アパートなどで亡くなった人の遺品のうち、金品や重要書類などを保全し、不要物を撤去する業務。特殊清掃とは、死後、発見が遅れた遺体によって汚れた室内の清掃・原状回復を行う業務のこと。
毎年開催されている葬儀業界の展示会「エンディング産業展」に、2016年からミニチュアを展示し始めたところ、彼女が丹念に細部を表現した「孤独死の凄絶な現場」は大きな反響を呼び、入場者が撮影写真をアップしたツイートには1万5千ものリツイートがされるなど、大きな話題となった。そのミニチュアは、よく見るとゴミ屋敷のように床面をビニル袋が占拠して虫が這っていたり、布団が赤黒く染まっていたり、湯船からはどす黒い液体がこぼれていたり……かなり衝撃的な描写なのだ。
17年に初めて本誌がインタビューした際、小島さんは次のように語っていた。
《孤独死の発見が遅れれば、夏場なら死後1週間もすれば腐敗して、畳や床が人の形のシミになってしまいます。そんな状況をリアルにお伝えしようと制作したミニチュアについて、「ディテールがすごい!」と投稿してくれたツイートには、「お気に入り」もたくさんつきました》
そして、今日現在、彼女が手掛けた作品は9点にのぼる。代表的ないくつかを彼女自身が解説する。まずは、風呂場のミニチュアから。
「冬場に浴槽の中で亡くなった方の現場を再現しました。発見されるまでの2カ月間、追い焚き機能で温かいままでしたので、腐敗がすごく進んでしまっていました。皮膚や内臓は骨から分離してしまって、お湯に溶け込んでしまうため、湯が『血の色が濃くなったような』色になっているんです」
次は、大量のゴミ袋で山のように埋め尽くされた“ゴミ屋敷”。
「ゴミ屋敷の主は、失恋やリストラなど、大きなショックで生きる気力を失ってしまったり、脱力してしまった方が多いんです。そして、こんな現場につきものなのが、巨大なゴキブリ。ある現場では1千匹ものクロゴキブリに囲まれてしまい、さすがにトラウマになってしまいました……」
ゴミ屋敷は、職業などの理由で、時間的に余裕がないことも関係しているのではないかと小島さんはみている。
「ゴミ屋敷の現場は、孤独死だけでなく、住人ご自身がゴミ処分を依頼されるケースも多い。弁護士、接客業、看護師、タレントの方などさまざまですが、共通項は『激務に追われてエネルギーを使い果たしている』こと。『今日は疲れているから明日掃除しよう』『休日に一気にやろう』が積み重なり、徐々に追いつかなくなってしまう人がいれば、勤務シフト上、朝の早い時間のゴミ出しができずに、ため込んでしまう人もいます。誰の家でも、ゴミ屋敷になりえるんです」
この8月には初の著書『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』(原書房)を出版した小島さんが、最後にこう言う。
「フォロワーの方の反応をみていると、2年前に比べて、『孤独死は他人事じゃない』と思ってくれる方が増えてきた気がします。テレビなどではカットせざるを得ない内容も、本では表現できましたので、一人でも多くの方に『自分も気をつけなきゃ』と思っていただけたら嬉しいですね」