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「本を書くことになるとは想像もしていなかったんです。突撃洋服店を85年に立ち上げて、それから35年が経ちますが、渋谷店にも神戸店にも色々なお客さんが集まってくださって。本の話をくださった編集の方も学生の頃から通ってくれてて『突撃さんの本を作りたい!』って言ってくれたんです。他にもコピーライターやグラフィックデザイナー、映画監督といった常連さんたちとチームを作って本を制作しました。縁が縁を呼んで生まれた作品です」

 

そう語るのは、突撃洋服店のオーナー・安田美仁子さんだ。安田さんは4月7日に初の著書「古着は、対話する。」(ギャンビット刊)を出版したばかり。そこには彼女が選んだ古着の写真とともに、SNSを通じて発信してきた力強い言葉たちが並んでいる。

 

商品を仕入れるため自ら海外まで出向くという安田さん。その個性的な古着の数々は業界で注目を集め、05年に放送された宮沢りえ(47)らの主演ドラマ「女の一代記」(フジテレビ系)や木村拓哉(47)主演による07年のドラマ「華麗なる一族」(TBS系)といった名作たち。さらに近年では斎藤工(38)主演による19年の映画「麻雀放浪記2020」や、ミクスチャーバンドKing Gnu「Slumberland」のMVにも衣装を提供している。

 

「制作の方に人物像を伝えられて洋服を提案するんです。その人の心情や目には見えない“その人らしさ”を洋服で表すというのは、お店の接客だって同じこと。 詳しく描けない部分をお手伝いするっていうイメージですね」

 

そんな安田さんは「エイジレスでジェンダーフリー」という言葉を大切にしている。「年齢も性別も関係なく自由に」という理念が生まれたのは、男性の持つ価値観への違和感がキッカケだったという。

 

「80年代の終わりになるとジャンルとしての古着が確立されてきて、リーバイスのジーンズが流行りました。すると周りの男性たちが洋服に対して『何年代のどのアイテム』っていうところに価値を置くようになったんです。でもレディースはそんなことより『どれだけ綺麗か、かっこいいか』というのを大事にしていて『すごく自由だな』と感じていました。そこで商業的なカテゴリーに違和感を覚えるようになって男性の価値観に『古着で反発したい!』って考えるようになったんです」

 

安田さんは「男性が女性の服を着たっていい」と提案する。

 

「男性がブラウスを着ることで、逆に男っぽさが際立ちます。男性のジャケットを着た女性に色気が出るのと同じです。デパートでは年齢でフロアが違いますよね?あれも不思議だなって。『どれでもいいんですよ』って言われると本能的に好きな服を選ぶはずです」

 

時代が進歩し、個人の自由や多様性への尊重も広がってきたように見える。しかし、安田さんは社会の矛盾を指摘する。

 

「SNSが普及してるので調べたら何でも出てきちゃう。すると逆に同質化しやすいんですよね。例えば親御さんが入学式にふさわしい服を調べるとすぐに一例が出るので、その枠の中でばかり考えてしまう。私の場合『周りから浮く』っていう経験は、子供の学校行事でだいぶ訓練されてるので耐性が付いてます(笑)。非難されたことはないんですけど、でも特別視されるのってすごくしんどいんですよね。『多様性社会ってところで何?』ってわからなくなってる人もいるんじゃないかな」

 

安田さんは編集者から「若者のマインドを育てるような本にしてほしい」とお願いされたという。

 

「就活中のお客さんが一般的な価値観にうまく擦り合わせできてなかったんです。古着を着ることで、そういう子の自我が芽生えることもあります。社会的な役割を与えられることよりも、まず『自分ってこういう人なんだ』って知るのが大事。でも、それって若者だけの問題じゃないんですよね。年齢も性別も問わず色んな方が私の本を読んで、メッセージを受け取ってもらえたら嬉しいです」

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