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「“二度としない”を繰り返すしかないんです」

 

そう話す中川拓さん(52)はとても元DV加害者には見えない。しかし知らずのうちに妻の亜衣子さん(41)を苦しめ、離婚の危機になった過去がある。

 

自らの行動に気が付き、加害者に“なれた”のは、被害者だった妻の勇気と行動のおかげ。だからこそ、世のDV加害者にも気づきを与え苦しむ人を減らしたい。一般社団法人「エフエフピー」を立ち上げ、DV加害者の更生に奔走し始めたのも、妻の決意あってのことだと話したーー。

 

そんな妻に、かつて家を出ていかれた日のことを、中川さんはこう振り返る。

 

拓さんは、帰宅後、玄関が開いているのを見て、

 

「玄関が開けっ放しじゃないか」

 

と、ひとりごちながら家に入った。呼びかける声に返事がない。そうしてようやく亜衣子さんが出ていったことに気がついたのだ。どうやって連れ戻そう。そればかり考えて、テーブルの周りを5時間もただグルグルと回っていた。

 

思い立ってメンターのような存在の先輩にスカイプで相談した。

 

「離婚したらいいじゃない」

 

彼はさらりとそう答えた。

 

「愛している人が離婚したいと言っているんでしょう? どうしてそれを受け入れられないの?」

 

衝撃だった。拓さんが思いもよらない答えだった。

 

「そこで私は、亜衣子さんを自分のものだと思っていたということに気がついたんです」

 

毎日のように先輩と話した。

 

「離婚で1人になることを恐れているけれど、それはあなたのエゴ」

 

そうも言われたが、離婚は考えられなかった。もう誰にも逃げられたくない一心だった。毎日、亜衣子さんに一方通行のLINEをし、彼女の実家にも足を運んだ。土下座して謝罪し、帰ってきてくれないかと頼んだが、答えはノー。

 

並行して「別居」「復縁」などのキーワードで検索し、NPO法人「ステップ」にたどり着いた。虐待・ストーカー・DVの加害者更生プログラムや被害者支援を通して、家族の不健全な関係を修復するサポートを行うNPOだ。12月上旬、拓さんは横浜でのステップのプログラムに参加した。

 

亜衣子さんにはメールで報告をする交渉をした。ステップで学んだこと、ステップで聞いたDV被害者の生の声に亜衣子さんを重ねたこと。そんな内容のメールを毎日続けているうちにポツリポツリと彼女から返事がくるようになった。

 

「ステップに通うため家を空けることが増えるから、犬と猫の面倒をみてほしい。僕は別にアパートを借りるから」

 

昨年1月、動物好きの亜衣子さんは、別居であればと心が動き、両親の反対を押し切り家に戻った。亜衣子さんはなぜ戻る気になったのだろう?

 

「最初は連絡が来るのもイヤでした。ただ、ステップの話を聞き、サイトも見て、本当に彼の考え方や夫婦の関係性を変えることができるのなら、ありなのかなと思うようになってきて」

 

気がかりなのは、やはり子どものことだった。

 

「離婚しても親子には変わりありません。子どもを拓さんに会わせる際は、私が連れていくことになる。そのとき、夫婦の関係性が悪いままだと、子どもにも周囲にもまた迷惑をかけるなと思って」

 

亜衣子さんは冷静だった。

 

「メール、電話、会う、泊まる……。少しずつステップアップして別居したまま出来るトライアルは全部した。本当に彼は変わったのか。それはもう、一緒に住んでみないとわからないと思ったんです」

 

拓さんはとにかく驚いたという。

 

「もっと感動があると思っていたけど……。ガッツポーズという感じではなかったですね。それよりも、絶対に同じことは繰り返すまいと、身が引き締まる思いでした」

 

拓さんがルールを決め、亜衣子さんが従う。かつてはそんな夫婦だった。それを思えば、亜衣子さんが決断し、主導して、再同居が始まったことは画期的なことだ。

 

取材最終日、亜衣子さんは食事をふるまってくれた。

 

「お昼、食べてくださいね」

 

料理好きな亜衣子さんの手料理は絶品。カウンター越しに、彼女が料理を出していくと、拓さんが無言でテーブルに並べていった。

 

「あ、取り皿」

 

と、亜衣子さんが言った瞬間に拓さんが立ち上がる。調味料やカトラリーを、それぞれテーブルに運ぶ動きはスムーズで、夫婦でぶつかることがない。人懐こい亜衣子さんは、食事中もコロコロとよく笑った。「食卓にソースが出ていない」と、座ったままでキレていた、かつてのDV夫の姿はそこにはなかったーー。

 

「女性自身」2020年12月22日号 掲載

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