ナビゲーターを務める“ゴンちゃん”こと権頭喜美恵さんの第一声で、この日の放送も始まった。
3月26日金曜日、ここは北九州市のコミュニティFM「エアステーションヒビキ」(88.MHz)のサテライトスタジオ。一面ガラス張りのスタジオに、穏やかな春の日差しが差し込んでいる。
「今日は暖かいですね」
「3月ももうおしまいですからね」
ゴンちゃんの言葉に、サポート役の小島成裕さんが相槌を打つ。
と、すかさず高齢の女性の声が割り込んできた。
「うちの男衆は皆、3月生まれやけん。アニキやらおったらせわしいて。口うるさいけんね」
酒井清子さん(87)だった。レギュラー出演者の女性トリオ「あめちゃんず」の1人だ。
ちなみに「あめちゃんず」の由来は「キャンディーズ」だとか。
酒井さんのおしゃべりをやんわりかわしてゴンちゃんは続ける。
「さ、今日も生放送でお届けしてまいります。まず、自己紹介からいきましょう。中村さん」
しかし、呼びかけられた中村文子さん(90)は、ヘッドホンを装着したまま身じろぎもしない。
「うちの兄は来たことないでしょ」
と、またまた酒井さん。
「そうですかねぇ」と、さらりと受け流しながら、ゴンちゃんは中村さんの目の前で手を振った。
ハッと中村さんは覚醒! 手を振り返して、姿勢を正す。
中村「はい。中村文子と申します」
ゴン「何歳ですか?」
中村「は? 90歳(笑)」
ゴン「ここではいちばん年上のお姉さんですね じゃ、天神さ~ん」
ところが、天神ツキミさん(88)は、呼ばれたことに気づかない。
中村さんが「天神さん」とささやいて、彼女の肘を軽く突ついた。
それまで天神さんは小声でブツブツ独り言を繰り返していたが、突然、スイッチが入ったように高々と片手を上げると、大きく張りのある声で話し出す。
天神「はーい! 昭和8年2月5日生まれ、天神ツキミでございます。よろしくどうぞ」
ゴン「今日も元気ですね」
天神「元気バリバリ!」