広瀬さんは、インストラクターの養成にも力を注いでいる。
「現在、14人いるインストラクターは全員が、がん経験者、もしくはがん専門の医療者です。サバイバーだからこそ、味わってきた苦しさ、つらさが、論より証拠でわかり合える。インストラクターも、誰かのために頑張ることで、前を向いて生きていけると思います」
インストラクターの一人は、5年前、卵巣腫瘍で手術を受け、良性と診断されていたが、術後1カ月の検診で「実は悪性でした」と、告げられた。
「腫瘍は取りきったので、『あとは運動してください』と言うのですが、探しても、がんサバイバーが運動できるところがないんです。会社側に話して、がんを曲解して解釈されるのも怖かったし、配置換えをされる心配もあったんです」
社会や会社からはじき出されそうな恐怖や孤独も、多くのがんサバイバーが抱えている。
「いまも広瀬さんに言われるんです。『こんなふうに背中を丸めてきたよね』って。広瀬さんはかわいらしいのに、大きい人。懐ろが深いんです。信用できると思いました。最初は赤坂御所近辺のウオーキング教室に参加しました。歩きながら、老舗『わかば』のたいやきを皆さんと食べたら、それがおいしくて!」
と、目を輝かせた。生きる希望が見えた瞬間だったのだろう。
「運動の後、ランチに誘ってもらって気がついたのは、みんな元気で、がんサバイバーっぽさがないってこと。広瀬さんに言われたのは、『運動した後にご飯を食べるときは、ジメジメしないでしょ』と。いろいろ話して、泣いてしまった後でも、次の話題では、みんなで大笑いしたり。ちょうどいい具合の明るさなんですよね」
広瀬さんは言う。
「(介護していた)両親を看取ったとき、思ったんです。結局、人は死ぬまでにどう生きるか、生きぬくかが大切なんだって。どんな状況に置かれようと、人間は生きる力を、希望を持つ能力を持っていると私は信じています」
「女性自身」2021年5月25日号 掲載