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「今日の判決で正しく差別が罰せられたことは、差別をなくし社会をよくする希望になると僕は思っています。僕自身も、この判決で家族と一緒に回復していきたい」

 

5月12日、東京・霞が関の司法記者クラブで行われた記者会見で、そう力強く語ったのは、在日コリアンを母に持つ中根寧生さん(18)だ。そんな息子の姿を誇らしく見守るのは、母の崔江以子さん(47)。長く苦しい母子の二人三脚の闘いに一区切りがついた瞬間だった。

 

■「人種差別はそれ自体が違法」勝ち取った画期的判決

 

《悪性外来寄生生物種》《人もどき》《見た目も中身ももろ醜いチョーセン人》……。

 

寧生さんに向けられたあまりにも差別的な言葉の刃たち。きっかけは2018年、寧生さんが参加した、地元・神奈川県川崎市の平和イベントの様子が地元の新聞で紹介されたことだった。当時・中学校3年生の寧生さんは、共生の思いを披露。この模様が報道された直後から、ネット上の掲示板、ツイッターなどに大量の差別的な書き込みがなされた。

 

そのうち最もひどい前出の投稿が「写楽」と名乗る匿名ブログによるものだった。

 

「新聞に載ったのをうれしいなと思ったら、突然、差別的な書き込みが……。ショックもありましたが、怒りがこみ上げてきました」

 

ブログの主は大分市の68歳男性だった。男性は一度も裁判に出席せず、横浜地方裁判所川崎支部は男性に91万円の支払いを命じる判決を下した。だが、あえて寧生さんは控訴した。

 

「すべて弁護士に任せて、裁判に出てこないのは、まったく反省がないのだと思ったからです」

 

結局、ブログの主は裁判に現れることはなかったが、5月12日に東京高裁が下した判決で賠償金は130万円に増額された。この種の裁判では異例の賠償額だ。

 

人種差別は人格権侵害で、それ自体が独立して違法なものと判断できる画期的な判決だった。判決が下ったとき、寧生さんは大学1年生になっていた。

 

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