そして19年、山崎さんは佐藤さんからこう言って口説かれたという。
「スタートしたばかりのウマウでは、ひとり親の支援活動で、いろんなタイプの人の相談に乗ることになる。未婚、離婚、夫のDVから避難した人……。私たちの仲間には、それぞれ経験者がいるけれど、死別した人ってなかなかいない。だから、久美子の経験が役立つときが必ず来ると思う、やってみない?」
山崎さんは真っすぐに佐藤さんを見つめ返して言った。「私でよければ、手伝わせてください」。真嗣さんが他界して2年、山崎さんは力強く前を向いた。
佐藤さんの予想したとおり、山崎さんはいま、大勢のお母さんたちから頼りにされる存在に。そして、週末の「親子食堂」じじっかごはんには、いつも家族で参加している。
「じつは21歳になった長女の玲奈が去年、未婚で女の子を産みまして。いまでは子供4人プラス孫1人を連れて来ています」
新米のひとり親・玲奈さんも、主に子供たちのお世話をする係として、すでにじじっかの戦力になっている。
「私たち、ほんと、ここが実家と思ってるんです。子供たち皆、ここが大好きで『次はいつ、じじっかに帰るの?』って聞いてきます。この先、誰かの役に立てるなら、私や玲奈はもちろん、下の子たちもずっと、じじっかとつながっていてほしい、そう思ってます」
■かけがえのない新しい家族と共に佐藤さんの夢は続いていく。「次は、農業法人も!」
「夢ですか? そうね、やっぱりお母さんたちの収入をもう少し上げていきたいの。それでいま、6次化まで視野に入れた農業法人を立ち上げたんです。これから本格的に始動するところです」
佐藤さんはこう言って目を輝かせた。ちなみに農業法人は、ウマウなど既存の団体とはまた別の組織だ。
ひとり親家庭のため、走り続ける佐藤さんだが、プライベートでの夢はないのだろうか。たとえば再婚とか?
「ないない(苦笑)。だってここに、新しい家族がたくさんいるから」
そう言って笑うと、佐藤さんは目の前にいた4歳の女の子に話しかけた。
「あ、そうだ、今度、皆でスイカ、食べに行こうか?」
佐藤さんの言葉に、その場にいたお母さん、全員の笑顔がはじける。
「いいね、ゆりネエ、それいい!」