「撮影は今年の3月まででしたが、3月以降に感染がさらに拡大して。もっといろんな矛盾や大変さが見えてくるだろうから撮り続けたかったんですけれど、4月から新年度で年度替わりです。保健所の体制も変わるものですから、そこまで撮らせてくれと言えませんでした」
猛暑が去り、涼しさを感じられるようになった9月1日。東京の新規感染者数がまだ3,000人を超えていたこの日、数々のドキュメンタリー映画を手掛けてきた宮崎信恵監督(79)は本誌取材にそう答えてくれた。
宮崎監督は、新型コロナウイルス感染症の対応に追われる東京都中野区保健所に1年近く密着したドキュメンタリー映画『終わりの見えない闘い―新型コロナウイルス感染症と保健所―』をこのほど完成させた。
これほど長期にわたって保健所をカメラに収めた作品は例がないという。そこには、保健所が行政機関であることから撮影の許可を取ることが難しいということが理由の一つとしてある、と宮崎監督は言う。そして、もう一つの理由は――。
「保健所は“絵にならない”のです。医療現場の映像はけっこうたくさんありますよね。病院は絵になるんですよ、命と直結してますでしょ。救急車にしても、ベッドの様子にしても、搬送の様子にしても、人工呼吸器にしても、言葉はよくないかもしれませんが、絵になるんですよね。
保健所は、本来は直に出て行って面談することもあるんですけれど、今は電話応対が中心。それだと絵にならない。ですから、取材する側としては保健所に関心が向きにくい。私も電話対応だけでは絵にならないので、困りましたね」
「この映画は退屈なんじゃないか」という宮崎監督の不安に反して、8月27日に中野区で開かれた上映会は盛況。3回に分けて行われ、コロナ感染予防のため人数制限をして各回150名づつ、計450名が集まった。
「反響はすごくて、『あっという間の100分でした』とか、『保健師さんの苦労がわかりました。保健師さんたちに感謝します』とびっくりするくらいうれしいご意見ばかり。感想文も180人分くらい集まって、本当に多くの方が丁寧に書いてくれてました。今後はミニシアターでの公開を目指しています」