■現場の保健師から「この状況を記録したい」の声が
10月2日からは、東京の映画館「ポレポレ東中野」での公開も始まる同作。宮崎監督がこの映画を撮るきっかけは、現場の保健師から「この大変な状況を記録しておきたい」と相談があったことだった。
「最初に、帝京平成大学ヒューマンケア学部の工藤恵子教授のところに保健師の方から相談があったんです。東日本大震災でも阪神大震災でも、そこでどう保健師が関わったかというのをリアルタイムで映像に収めているものはほとんどない。でも、記録することで課題が明確になり、対応策を考えることもできるのではないか、と。
保健師の方たちが“自分たちでカメラを回そうか”という話も出たそうですが、ちゃんと撮っておいたほうがいいだろうと、話を聞いた工藤さんが私にメールをくれたんです。それが去年の5月。コロナがまだよくわからないなか、緊急事態宣言が出て町から人が消えて、最初の頃でした。
私も正直言うとすごく怖かった。もし自分がコロナに感染したらという思いがありました。でも同時に、ずうっと映像を作ってきた者としては、これを記録することの大切さを感じていて、メールをいただいてから私はすぐにこの話に乗りました。怖かったんですけど、今のこの状況を見ておくというのは私にとって使命というか役割というか、これは記録映画を作ってきた者としてはとてもいい話だと思ったのです」
通常は小人数でも5~6人のクルーを組むのが普通だというが、本作の撮影ではリスクを考慮し、監督含め、カメラマン、音声の3人という人数で行った。問題になったのは、最終的には940万円かかったという制作費をどう捻出するかだった。
「映画を撮るってお金がかかるんですよ。最初はみんなに『(制作費は)心配しなくていい』と、私が背負うつもりだった。自腹にして、あとで教材映像として販売して回収すればいいと思ったんです。今までそんなふうに『制作費はいい』と言ったことはありません。受注するなら、ちゃんと制作費を決めます。けど、彼女たちは現場の一職員なんですよ。思いはあってもお金はないことはよくわかってるから、負担をかけてはいけないなと思ったんです」
話し合いを続けるなかで、宮崎監督から「これは映画にして公開したい」と提案。さらに「制作費をクラウドファンディングで集めてみては」という声が挙がった。
「それで最初は目標200万円でクラウドファンディングをスタートして。不安だったんですが、すぐに達成できてびっくりしました。それで気を良くして目標を400万円にしたんです。580万円くらい集まりましたが、クラウドファンディングは17%の手数料を払うので、制作費として使えたのが400万円。すごく助かりました」
そこには応援してくれた、ある著名人の存在も。
「ずっと作品作りで女優の吉永小百合さんが応援してくれているんです。2003年に作った作品『風の舞~闇を拓く光の詩~』(ハンセン病患者隔離政策の問題点を指摘した作品)で詩の朗読をしてくれて、ボランティアで『風の舞』の上映会も一緒に行ってくれて。ほかの作品でも応援してくださって。応援団長なんです。今回もクラウドファンディングをすると言ったら、『(私の)この写真を使って』と送ってくれてメッセージをくれました」
クラウドファンディングのサイトには吉永小百合さんの笑顔の写真と、《「宮崎信恵監督は厳しい状況のなかで懸命に生きている人々に光をあて続けています。私はこれからもずっと宮崎さんを応援していきます。 吉永小百合」》と綴られていた。
「そのおかげもあったと思います。文化庁の助成金も映画制作に200万円くらい出ましたので助かりました」