12月10日、政府与党が「税制改正大綱」をまとめた。今年の目玉は「賃上げ税制」。だが、この税制で本当に給料が上がるのだろうか。経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれた--。
■法人税を納めてない赤字企業が過半数
給料を上げた企業に、中小企業なら給料増加分の最大40%、大企業では最大30%を、法人税から差し引くというもの。つまり、賃上げした企業に法人税軽減という“ご褒美”を与えて、賃上げを促そうというのです。また、給料を上げず設備投資もしない大企業には、研究対策費などの減税をはずす罰則規定も導入しました。
いま雇われて働く方の平均給与は、約433万円です(’20年・国税庁)。’97年の約467万円からずっと下がったままですが、この税制で本当に給料が上がるのでしょうか。
たとえば従業員10人のA社で、年収が全員360万円だとすると、A社が払う給料の総額は年3,600万円です。この税制が開始すると、中小企業が最大限の優遇を受けるには、会社が払う給料総額を2.5%アップしなければなりません。A社の場合は3,600万円×2.5%=90万円分の給与アップが必要です。
次に法人税ですが、A社の利益が年500万円だとすると、法人税率は15%、法人税は75万円です(法人税率は会社の規模、収益、開業年などによる)。賃上げした90万円の40%である36万円を法人税から差し引くので、今年の法人税は75万円−36万円=39万円で済むというわけです。 ですが、経営者は「給料は一度上げるとなかなか下げられない」と考える方が多いもの。一時的に法人税が下がっても、この先ずっと上げた給料を維持できるのか、不安を感じる方が多いでしょう。
加えて、そもそも日本の企業の65.4%は赤字で、法人税を納めていません(’21年・国税庁)。法人税を払わない企業に、法人税を下げるといっても、なんの影響もないでしょう。給料を上げる原動力にならないと思います。
実は、賃上げ税制は今回初めてではなく、安倍政権下の’13年度から行われています。効果のほどは、皆さんが実感されていることでしょう。今回は法人税は最大40%と引下げ率が大きいものの、構造自体は安倍政権時代と同じ。失敗し続けた政策をバージョンアップしただけですから、賃上げは期待できないと言わざるをえません。
いっぽう、新型コロナの感染状況が落ち着き、求人が増えているようです。自動車メーカーのマツダは期間制労働者を約350人増やし、基本給も9%引き上げると発表。また、11月のフード系のアルバイト・パートの募集時平均時給(三大都市圏)は、前年同月より3%アップの1,062円(’21年12月・リクルート)。
人手が必要になれば給料は自然と上がります。政府は賃上げ税制より、景気をどう回復させるかに注力してほしいと思います。
残念ながら、’22年も給料は大幅には上がらない流れが続きそうです。財布のひもを引き締め、生活の自主防衛に努めましょう。