■過去には除草剤が流出した例も

 

「当時の技術では安全に処分することができなかったので、林野庁は’71年9月に山林に埋めて処分するよう営林局に指示しました。その2カ月後の11月に、林野庁は〈除草剤と土やセメントを混ぜてコンクリート塊にして埋設する〉〈水源や民家から離れた場所で、風水害で崩壊する恐れのある場所を避ける〉といった注意事項を文書で通達したのですが、時すでにおそし。灯油缶に除草剤を入れてそのまま埋めるなど、ずさんな処理を行った営林署もあったのです」(原田さん)

 

46カ所ある埋設場所のうち、林野庁の通達どおりに埋設されていない場所は20カ所も存在する。

 

実際に’84年、愛媛大学が地元の宇和島市にある除草剤の埋設現場を発掘調査したところ、腐食して穴が開いた灯油缶が見つかった。缶を包んでいたビニールは漏れ出した除草剤で変質していたという。

 

懸念されるのは、住民や環境への影響だ。埋設地からわずか約1キロの地点に、市民が水がめとして利用する五ケ山ダムがある福岡県那珂川市の職員は、こう危ぶむ。

 

「最近は、甚大な豪雨災害が頻発していますから、土砂崩れによってダムに埋設物が流入するという可能性もゼロではありません。林野庁も年に2回、崩れていないかなど現地点検をしてくれていますが、市としては、住民の不安を払拭するために’98年から林野庁に撤去を要望し続けています」

 

林野庁は、埋設地からダイオキシンが漏れ出す可能性について、どう考えているのか? 林野庁の担当者が語る。

 

「そもそもダイオキシンは水に溶けにくく土にくっつきやすい性質です。それをさらにセメントで固めているので、通常の雨などで地下水に流れ出すということは考えにくい。また、林野庁の通達と異なる方法で埋設していても、『問題ないので、そのまま埋設を続けなさい』という専門家の見解が、昭和59年から平成11年に開いた検討委員会で示されています」

 

さらに、担当者は「豪雨によって山ごと崩れたとしても心配ない」と話し、こう続ける。

 

「ダイオキシンは土にくっついている状態なので、ダムに流れ込んでも沈殿します。飲料水で使用する際には必ずろ過しますから、そのまま飲んでしまうということは考えにくい」

 

五ケ山ダムを管理している福岡市水道局によると、「これまでダイオキシンが検出されたことは一度もない」という。

 

ダイオキシンは水に溶けないというが、心配されるのは流れ込んだ土砂を魚が餌と一緒にとりこむなどして生物濃縮される可能性だ。

 

「ダイオキシンは毒性が強く、催奇性や発がん性などが報告されています。ただし、ダイオキシンをそのまま摂取しない限り、すぐに大きな健康被害が出る可能性は低いです。しかし、食物連鎖で魚などに濃縮され、それらを人間が食べることでさまざまな健康被害が生じるという可能性はあるでしょう」

 

こう語るのは、熊本学園大学教授(環境化学専門)で、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の理事でもある中地重晴さん。

 

日本で起きたダイオキシンを摂取したことによる健康被害といえば、’68年に起きたカネミ油症事件が有名だ。この事件では、カネミ倉庫が製造する食用油にダイオキシンが混入。油を食べた被害者は皮膚の色素異常、頭痛や手足のしびれなどの神経障害、肝機能障害などさまざまな病気に苦しんだ。

 

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