「うちの一番人気は、今も注文のあった天玉そば。天ぷらに卵で、一杯で栄養も満点でしょ」
〈サイフ、マスク、カバン、スマホ、カサを忘れないで!〉
立ち食いそば屋らしい店内の張り紙の脇に、6月末、こんな新しいメッセージが掲げられた。
〈吉田屋そば店は、2022年7月31日を以て閉店いたします。46年の長きにわたり、ご愛顧いただき誠にありがとうございました。吉田屋そば店主 草野彩華〉
ふうふう言いながらそばを食べていた男性客が言う。
「おばちゃん。このお店、7月で終わっちゃうんだって? 残念です。学生のころからだから、もう10年以上、通ってたのにな」
「私たちも、本当に残念なの」
「区画整理だそうですね……ごちそうさま。また来ます」
「まいど。最後までよろしくね」
彩華さんは、1歳のときから、ここ馬場で育ってきた。そば屋を始めてピーク時には1日800杯を供したというから、最盛期ということを差し引いても、700万回近くのお客との交流があったことになる。
それだけに、閉店は自身にとっても「断腸の思い」であり、その心労もあってか、6月初めには緊急入院もしたという。
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