■「一隅を照らす」――僻地医療こそ自分が手伝える場所と肝に銘じて
それまでの香山さんは、教授や執筆、講演など、医師以外の顔を多く持つことで「逃げ場にしていた」と自身で振り返っていた。
「頑張りすぎない」ことで精神的なバランスが保てるという持説は、自ら実践してきたものだ。
でも、香山さんは今回、自分の使命と真正面から向き合うことに決めた。
それは、「医療が行き届かない場所で、医師としてのキャリアやスキルを生かすこと」だったのだ。
’20年、60歳になる年の香山さんを妨げるものは何もなかった。
まず海外赴任の道を描き、緊急医療のNGO「国境なき医師団」応募を考えたが、英語力や救急スキルなどのハードルが高く断念。
次に発展途上国への医療ボランティア「ジャパンハート」参加を志願したが、コロナ禍で渡航フライトがキャンセルとなり頓挫してしまった。
海外への道が閉ざされた後に、残ったのが「僻地医療」の医師への公募。
それが’21年6月、むかわ町穂別診療所で空いていた、副所長職の求人だったのである。
「ある講演会で中村さんは、国際貢献したいという学生に『いまいるところにあなたを必要としている人はいます』と『一隅を照らす』という言葉で答えられました。
私は『深刻な医師不足に困っている僻地医療こそ、私が手伝える場所だ』と肝に銘じたんです」
(取材・文:鈴木利宗)
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