カトリック帯山教会(熊本市)では、午前9時30分から年配女性や学生らが集まり、毎月第2土曜日に開催される「ふるさと元気子ども食堂」の準備が始まった。
スタッフの中心にいる青年は、この日の段取りをテキパキと説明し終えると、今度は早足で持ち場ごとにアドバイスを与え、会場を動き回る。そして11時スタートと同時に来場する子どもと、その親の対応に回った。
カレーライスやキッシュが振る舞われた食堂では、ビンゴ大会が行われており、子どもたちと一緒に大声を出しながら盛り上がる。
青年は、ヨーヨーすくい、綿菓子やかき氷を楽しむ子どもを見渡し、所在なげにしている一人ぼっちの子を見かけると「おなか、いっぱいになった? 一緒に遊ぼうか」と、小さな手をつないで、遊びの輪に入っていった。
昨年6月、高3のときに子ども食堂を立ち上げたその青年は、熊本県立大学1年の宮津航一さん(18)。
「最初は人が集まるか心配でしたが、回を重ねるごとに参加者が増えていって、今では100人から120人くらい。ボランティアの人たちの食事が足りなくなることもあるほどです」
弾ける笑顔で語る航一さんから少し離れたところでは、サポート役に徹している父・美光さん(65)と母・みどりさん(64)が見守っている。ただ、航一さんと両親には血のつながりはない。
「扉っぽいものがあるところに入っていたのは、おぼろげながら覚えています」
航一さんは3歳のとき、なんらかの事情で匿名で子どもを託すことができる熊本県・慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)の開設初日に、1人目として保護されたのだ。
「間もなく、被虐待児や非行に走る子どもなどを対象とした専門里親などに登録していた父、養育里親に登録していた母に引き取られました。
両親は、’11年、里親制度よりも多くの子どもを受け入れられるファミリーホームを設立しました。これまで、厳しい家庭環境で育った30人以上の子どもたちが卒業しています」
現在は、おばあちゃん、宮津夫妻、航一さん、そして5人の里子の9人暮らしだ。
今、航一さんがこうして子ども食堂を立ち上げ、運営しているのも、子どもたちのために半生をささげてきた両親の姿を間近で見てきたからだ。