■入院基準の指示で医療現場はむしろ混乱
「うちは本来、救急受け入れ要請が来るクリニックではないのですが、11月に入ってから数件“4~5カ所当たったけど受け入れてもらえなかった”と、救急隊から患者の受け入れ要請がありました」
そう明かすのは、インターパーク倉持呼吸器内科の院長で、約2万人のコロナ患者を診た実績がある倉持仁さん。「補助金カット以外の政策にも原因がある」と次のように推察する。
「厚生労働省は、入院者数を増やさないために、コロナ患者の入院基準を血中酸素飽和度の値などだけでトリアージするよう、ガイドラインで指示しています。
さらに10月からは、コロナ患者の全数把握をやめ、リスクの低い人は発熱しても受診を控えるように、という呼びかけまで出した。そのため、厚労省の受診基準や入院基準には当てはまらない方が“具合が悪くて動けない”と救急車を呼んでも、病院が受け入れを躊躇して入院先が見つかりにくくなっている可能性があるのです」
倉持さんが指摘するように、厚労省は10月から、“コロナとインフルエンザの同時流行時に医療ひっ迫を避けるため”として、65歳以上、子ども、妊婦、持病がある、など重症化リスクの高い患者以外は、受診を控えるよう呼びかけている。
「厚労省は“オミクロン株は重症化しにくい”と言っていますが、感染者が増えれば重症者や死亡者も増えてしまいます」(倉持さん)
実際に、第7波が到来した今年7~9月のわずか3カ月間のコロナ死者数は約1万3千500人。医療にアクセスできない現在の状況では在宅死が急増しかねない。
そもそも、コロナ禍となって3年もたつのに、なぜこのような事態が起きているのか。
「大前提として、厚労省はこの十数年、医療費削減のために救急病院も、急性期病床も減らし続けてきました。これはコロナ禍になっても続いています。病院を減らすと地域の医師や看護師の数も減ります。コロナ前から、救急医療は脆弱だったのです」(谷川さん)
第8波を乗り越えるにはどうすればよいのか――。
「検査を抑制するのではなく、感染を抑えるために、異変を感じたらすぐにPCR検査を受けられる体制を作ること。発熱外来を増やして医療アクセスをよくすること。さらに病床を確保するためには、いま補助金を減らすべきではありません」(谷川さん)
加えて、薬の処方も見直すべきだと谷川さんは続ける。
「海外に比べ日本では、パキロビッドなどの抗ウイルス薬が驚くほど使用されていません。
これは当初、数が足りなくて厚労省が制限していたことの名残りです。国の責任で薬を十分に確保したうえで、重症化リスクのある人には積極的に処方すべきではないでしょうか」
ところが岸田政権がやることといえば、全国旅行支援、ノーマスク推進、さらにはワクチン有料化の検討など“経済活性化”に振り切るばかりだ。政府が命よりカネを重視した結果、犠牲になるのは庶民なのだが――。