■3人目、4人目までは新米ママって感じでしたけど、そこから先は何人増えても一緒(笑)
経済的理由で、子を持つことを断念する夫婦も少なくない。子宝に恵まれ続けるなかで、彩子さんたちに不安はなかったのか。
「お金のことは考えませんでしたね。それは、いまもなんですけど。考えないっていうか、贅沢や無駄遣いをせずに、少しずつでも貯金する、それだけです」
やがて第五子(三男)を授かり、そして第六子(四男)が生まれて、彩子さんたち家族は、夫の故郷・敦賀にUターン。
「夫の母が子だくさんじゃないですか。その義母から『産むんやったら私が元気で、手伝ってあげられるうちに』と言ってもらって。実際、出産で家を空けるときなど、私たちになにかあればすぐ義母が飛んできてくれた。それはとっても心強かったです」
とはいえ「さすがにもう6人でおしまい」と考え、彩子さんは生まれて初めて社会に出ることに。パート勤めを始めたのだ。
「夫とも『これからは人生第二幕ね』なんて話していたんですが……」
さらに、山本家には7、8、9人目と、新しい命が次々と。
「仕事も始めていたし、そこまで欲しいとは考えてなかったんですけど(苦笑)。でも、もちろん、できたら『うれしいな』って、いつも思ってました。それに3人目、4人目までは私も新米ママって感じでしたけど、そこから先は、何人増えても、もう一緒やなって(笑)」
■6年前の家族旅行は子ども2人目以降は無料のプランを見つけ、家族全員で旅費3万円
彩子さんは毎日、朝4時半に起床し、深夜0時に床に就くまで、休みなく動き続ける。
「いま、パートは育休中ですけど、それでも同じ4時半起きです。私、バタバタするのが苦手なんです。『だったら、早く起きればバタバタせんくない?』って感じで。家族が起きてくる前に、化粧も済ませて、朝ごはんの準備もして。ここが唯一の自分の時間かな、と思ってます」
6時になると、夫と子どもたちを起こし、朝ごはんを食べさせる。そして、7時過ぎには夫と、就学している子どもたちを送り出す。
「それで、9時前に保育園に五男と六男を送っていって。その帰りにスーパーで買い物を済ませます。だいたい10時過ぎから、末っ子の歓大が昼寝するので、その間に学校や保育園に出す書類を書いたりして。お昼を済ませたあとは、洗濯物を畳んだり。そうこうしていると、あっという間に小学生たちが帰ってくる時間に」
ちなみに洗濯は、容量12kgの洗濯機を1日最低3回は回すという。
「帰宅した小学生の宿題を見てあげたりしながら、夕方4時半には保育園にお迎えに。帰宅後は晩ごはんの支度をして。食べるのはだいたい6時ぐらいからですね」
お風呂には、大きい子と小さい子のペアで入ってもらうなど、乳幼児を抱える彩子さんにとって欠かせないのが、上の子たちのサポートだ。ただ、長女の陽華さんが他県の高校に進学し、現在は寮生活を送っているため、山本家はお手伝いの重要な“戦力”を2年前から失うことに。彩子さんは言う。
「そこで、お手伝いをポイント制にして、お小遣いをあげることにしたんです。お風呂掃除は50円、そのほか、布団を敷いたり、掃除機をかけたりといったお手伝いはすべて10円。ここでがぜん、奮起したのが、長男と次男でした(笑)」
ここまで聞くと、家の中のことに関して夫・達也さんの影が薄いように感じなくもないが。
「そんなことないです。『俺もやるよ』って姿勢を最初から見せてくれてました。ただ、義母が『ザ・昭和の女性』でしたから。オムツを替えたり、おんぶひもで赤ちゃん背負ったりというのを『男の人にさせるもんじゃない』という人で。だから、私のほうから彼には『しないで』って頼んでました。
でも、それも敦賀に来て五男が生まれたころには、本当に私だけじゃ手が回らなくなって。必然的に、夫も参加してくれるようになりました」
夫婦が先述していたとおり、経済面の不安も、山本家の家族計画に、さしたる影を落としていない。
「私の周りにも『うち、お金ないねん』とこぼしとる人、おります。でも、私からは十分お金持ちに見えるんです。子どもにお小遣いいっぱいあげて、旅行も行くし、外食も。そうやって使ってしまっとるからお金ないんだろうなと。うちはその点、ぜんぜん使ってないけど、お金もない(笑)」
ちなみに、山本家初の家族旅行は、6年ほど前に行った温泉。
「『子ども、2人目以降は無料』という格安プランを見つけて。当時、まだ子どもは6人だけでしたけど、家族8人で旅費は3万円でした」
彩子さんは昨年から、インスタグラムで発信し始めた。「さぃ」というハンドルネームで、大家族の暮らしぶりや、多忙を極める家事の様子、さらに子育てに対する信条などをつづった記事をアップし、主婦層を中心に、フォロワーたちから多くの共感を呼んでいる。
「インスタグラムを始めた理由は2つあって。1つは夫の弟の奥さん、義妹が『子ども9人も育てていて、彩子さんがやってることは、すごいことですよ』って言ってくれたことなんです」
本人が先に述べたように「バタバタするのが苦手」な彩子さん。子どもが9人もいれば、忙しいのは当然のこと。だから、用意周到に家事をこなすよう努めている。
「だから、私にとっては、ごく当たり前と思ってやってたことなんですけど。義妹は『普通の主婦にはできんこと。少なくとも私は尊敬してますし、多くの人が関心を持つと思いますよ』って」
もう1つの理由は、彩子さんがとあるインスタグラマーをフォローしていたことだった。
「同世代のその女性は、ダイエットをテーマに発信していて。自分の体の写真を惜しげもなくアップしていた。それを私は『お子さんもおるのに、これってどうなんやろ?』って、ちょっと遠目から眺めていたんです」
その女性、長期間にわたって体作りを徹底、あるボディコンテストに出場し、結果を残したという。
「夢に向かって頑張ってる姿が輝いて見えました。それで、ふと自分を顧みたんです。彼女が努力を重ねていた数カ月、自分は何しとっただろうって。冷ややかに、ただ彼女のインスタを眺めるだけでなに一つ成長もなく、前に進めてないなって。それで、義妹に言われていたことを思い出して、私も挑戦してみることにしたんです」
こうして彩子さんはインスタグラムを開始。それは七男・歓大くんが生まれて間もない昨年2月のことだった。
最初こそ「なにをどうやって発信すればいいのか」戸惑った彩子さん。だが、やがてコツをつかむ。膨大な量の家事を手際よくこなす自分の姿や、にぎやかな育児の日常を、リズミカルな動画を主体にアップしていくと、反響はどんどん大きくなって、フォロワー数は瞬く間に4万を超えた。
「びっくりしました。少し前に、島根に帰省する際に家族全員のお弁当を作って、その様子を動画で上げたんです。数は多いですけど、お弁当の中身は手抜きというか、栄養満点って感じでもなかったから。批判のコメントいっぱいくるかなと、不安もあったんですけど」
果たして、その投稿には「手際いい、すごい」「お弁当、おいしそう」といった肯定派の意見が多数寄せられた。なかには「あなたに意見できるのは、同じ9人の子を育てた人だけ、あなたは素晴らしい母親」というコメントまで。
「本当は私、20歳で結婚して社会経験がほとんどなくて『子育てしかしてこなかった』と、どこか自信が持てなかったんです。それに、やんちゃな男の子たちが、なにか些細な問題を起こすたびに、周りの人から『子どもが多いから目が行き届かないダメな母親』と思われてるんじゃないかと心配で、ちょっと心が折れそうになったことも。だから、フォロワーさんからの『9人も育ててるなんて尊敬します』とか、『お子さんへの愛情の豊かさが、お弁当見ただけでわかる』なんて書き込みを目にしたときは、本当に心の底からうれしかった」と、彩子さんほほ笑んだ。