■退職所得課税控除の見直しも老後資金には打撃となる
加えて、少子化対策の目標設定や効果検証を国が行っていないことが問題だという。
経済財政諮問会議の試算によると、年間5兆円の予算をかけると60年には人口が90万~180万人増えるそう。だが年5兆円を60年まで続けるとすると総予算は約200兆円だ。1人当たりを換算すると……。
「子どもを1人増やすのに、1億~2億円かかる“異次元にコスパの悪い政策”といえます」(島澤先生)
家計が厳しい国民に負担を強いておいて、それはないだろう。
島澤先生いわく、少子化には、若者が経済的な理由から結婚できない、子どもが欲しくてもあきらめるなどの要因も大きい。国の支援は子育てに限定せず、結婚なども含めた多角的なものでなければ、少子化トレンドの反転はむずかしいといわざるをえないのだ。
骨太の方針には、もうひとつ50代世帯が見過ごせない「退職所得控除の見直し」がある。
「退職金は年功序列、終身雇用の時代から、長く勤めた人が得になるように設計されています」
そう話すのはファイナンシャルプランナーの山中伸枝さん。だが、国は人材の流動化を促すため、転職しやすい社会を作りたいのだ。
「現行では勤続20年を境に差がありますが、国は勤続年数に関係なく、一律で40万円×勤続年数=退職所得控除にするつもりだろうと見られています」(山中さん)
勤続38年のAさんの退職所得控除は現行では2千60万円だが、変更後は1千520万円に減る(上図参照)。退職金が2千万円の場合、現行では非課税だが、変更後の納税額は約38万円。大切な老後資金が目減りしてしまう。
「退職所得控除見直しは、実はiDeCo(個人型確定拠出年金)にも影響します」(山中さん)
iDeCoの一時金と退職金を同年に受け取る場合、その合算額から退職所得控除を差し引くことになる。上図のとおり、先のAさんは退職所得控除の見直しによって、約56万円も余計に税金がかかることになるのだ。
「退職所得控除の見直しでiDeCoの控除額も減り、運用益だけでなく元本にも税金がかかるのは大問題だと思います」(山中さん)
最後に島澤先生は指摘する。
「骨太の方針に財源を記さないのは、負担増を国民に知らせたくないからでしょう。負担増がわかれば、今後の選挙に影響しますから」