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「岸田首相は『実質的な追加負担はない』と強調しますが、負担のない政策なんてありえません」

 

そう指摘するのは関東学院大学経済学部教授の島澤諭先生だ。

 

6月16日「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」が閣議決定された。23年の目玉は少子化対策だ。’24年度からの3年間は年3兆円台半ばの予算を確保して集中的に取り組み、30年までに少子化トレンドの反転を目指すという。

 

そのための政策は、児童手当の拡充や高等教育の費用負担軽減、親の就労にかかわらず子どもを預けられる「こども誰でも通園制度」の創設、育児休業給付の引き上げ、選択的週休3日制度の普及などにも及ぶが……。

 

「首相が打ち出す『子ども予算の倍増』という規模ありきで決まった印象です。子育て支援に偏りすぎていて、少子化への効果のほどは大いに疑問ですね」(島澤先生)

 

また、首相は「追加負担なし」を公言するものの、財源は社会保険料の上乗せが有力視されている。

 

「社会保険料は現役世代が9割を負担していますから、結婚・出産はまだの若者にも、子育てが一段落した50代世帯にも負担が広がります。社会保険料が上がると手取り収入が減り生活が厳しくなるので、若者は結婚・出産をあきらめる人がさらに増え、50代世帯は老後資金作りに支障をきたす恐れがあります」(島澤先生)

 

果たして私たちの負担額はいくらになるのだろう。

 

「世帯主が50代の世帯では、平均月約8万円の社会保険料をすでに負担しています。

 

仮に3兆円台半ばといわれる子ども予算を3兆5千億円とし、そのすべてを社会保険料で賄うとしたら、保険料率を4.8%アップすることが必要です。社会保険料は50~54歳で月3千903円、55~59歳で月3千843円の負担増。年間約4万7千円というかなり重い負担増です」(島澤先生)

 

そのうえ、高校生に児童手当を支給する代わりに、16~18歳の子どもを扶養する親を対象とした38万円の扶養控除を見直す動きもある。

 

「児童手当の増額は収入アップにつながりますが、扶養控除がなくなればその分、納税という支出が増えます。年収などから試算すると、子育て世帯の約4割はかえって増税になってしまうのです」(島澤先生)

 

だまし討ちのような少子化対策だが、以前から財源に関する議論があるのに、首相はなぜ「追加負担はない」などと言うのだろうか。

 

「23年の骨太の方針の大きな問題は、財源が示されていないこと。ですから首相発言の真意はわかりませんが、カラクリの正体は少子化対策予算のひとつ『支援金制度』にあると思います」(島澤先生)

 

支援金制度の原型は現行の「子ども・子育て拠出金」といわれる。これは企業や雇用主が負担するもので現在の料率は0.36%。これ4~5%などに引き上げ、支援金制度を構築するのだろう。

 

「拠出金はあくまでも企業や雇用主が負担するので、『国民の追加負担はない』体裁は整います。 ですが、企業にすれば拠出金も人件費の一部。拠出金の負担が重くなれば賃上げを控え、雇用する人数を絞るなど人件費を抑えようと動く可能性が高い。

 

結局、企業の負担は必ず従業員にまわってきます。少子化対策の負担は、国民が負うことになるのは間違いありません」(島澤先生)

 

岸田首相のいう「追加負担なし」こそがごまかしだったとは!

 

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