しかし、彼女は、まだすべてを諦めたわけではなかった。
「動物愛護団体でボランティアを続けながら、いずれ少年や動物の施設を運営していくときに役立つだろうと、卒業後の就職先には、組織運営などについて学べる一般企業をあえて選びました」
アミューズメント系企業の営業職として働きながら、2年ほどが過ぎたときだった。
「会社員生活は充実しながらも、社会で働くことによって、自分の思いをきちんと形にしたいという考えが強くなっていきました」
改めて児童福祉施設や若者自立支援機関にも関わっていくと同時に、自ら子供と犬に関する社会問題の調査も始めた。
人もお金もコネもないところから、自らプレゼン資料を作り、関心のありそうな人や場所を訪ねて歩き続けた。犬や少年たちに対する思いをひたすら伝えることを続け、土地を貸してくれる大家さん、ドッグラン用の竹を提供してくれる人など、賛同者に出会うことができた。
’11年、任意団体「キドックス」を立ち上げ、翌年9月にNPO法人化して代表に就任。早速、保護犬を介した青少年の自立プログラムをスタートさせ、ひきこもりや不登校の子供たちを募る告知をすると、すぐに参加希望者も出たが、
「『今日は4人来る予定です』というので準備万端で待っていても、時間になっても誰も顔を見せない。そのうち『体調不良で全員欠席』と連絡が入る。やっぱり簡単じゃないな、と。そんな手探りの状況が3年近く続きました」
’13年春には、スタッフとアメリカ視察を実現。あの、プロジェクト・プーチでドッグプログラムを創設したジョアン・ドルトンさんとも対面することができた。
ジョアンさんによる「犬は道具じゃない。子供たちのパートナーとして、犬もまた幸せになることが絶対条件よ─」という教えを胸に、次々と支援プログラムを立ち上げ、’18年4月には、保護犬と出合える「キドックスカフェ」をオープン。トレーニングを完了した犬と、新しい飼い主とのマッチングの場ともなっている。
スタッフ、ボランティア、家族、支援者らに支えられていくと同時に、キドックスはコロナ禍のなかで10周年を迎え、’22年4月には、現在の地にドッグランやカフェ、ペットホテルなども併設した「ヒューマンアニマルコミュニケーションセンター(HACC)キドックス」を開設。今日までに、約400人以上の若者が関わり、90頭以上の犬たちが里親にもらわれていった。
「ゆくゆくは、この活動を日本中に広げていきたい。人が人らしく、犬が犬らしく生きられる社会づくりの後方支援をするのが私たちの夢です」
人も犬も、ありのままの自分を取り戻せる居場所・キドックスを経て、今日もそれぞれが次のステージへのワンステップを踏み出してゆく。