これまでの半生について語る庵主さん(写真:小松健一) 画像を見る

【前編】学生出産、看護師を経て48歳で出家…“駆け込み寺”の庵主さん「自分を好きになる方法」より続く

 

兵庫県姫路市網干区。瀬戸内海もほど近い場所に、その寺はある。山門をくぐると、出迎えてくれるのは、2匹の猫と柔和な表情の庵主(あんじゅ)さん。ここは悩める女性の駆け込み寺、不徹寺だ。

 

これまで多くの人の悩み相談を受けてきた庵主さん。看護師として終末医療に向き合いながら、シングルマザーとして二女を育て上げたのち、48歳で仏門に入った異色の尼僧だ。

 

『駆け込み寺の庵主さん』(双葉社)の著書も出すなど、その見識は広く知られている。この日も寺を訪れた女性たちが。不徹寺の一泊二日の修行体験に密着した。

 

■赤ん坊に立ち返ったら悩みも消える

 

「泊まりがけの修行体験に備え、張り切って家でストレッチしていたら、かえって腰を痛めてしまいました。ご迷惑かけますが、今日からよろしくお願いします」

 

4月13日(土)の正午前、兵庫県姫路市にある臨済宗妙心寺派・松壽山不徹寺の本堂で、主婦の梶田有紀子さん(73)が言えば、

 

「私も含めみなさんいいお年で、あちこち痛いとこばかり。互いにいたわり合っていきましょう」

 

誰からも親しみを込めて尼寺の主を意味する“庵主さん”と呼ばれている、25代住職の松山照紀さん(61)が笑顔で応じる。

 

不徹寺は、江戸時代に女流俳人の田ステ女が創建してから300年以上にわたり、代々、尼僧が守り続けてきた、門跡寺院を除けば日本唯一の禅寺だ。

 

この日は午後から、女性限定、携帯や化粧はご法度の「1泊2日の修行体験」が行われることになっており、梶田さんは大阪から同世代の友人と参加したのだった。

 

「今年1月に妹をがんで亡くすなど、立て続けに身内に不幸があって、うつ状態になりました。私は自分より家族のことで悩んで仏教の本も読み尽くしましたが、余計にわからなくなりました。今は知識を増やすより、助けてほしいという思いが正直あります」

 

それを聞いた庵主さんが、おでこの辺りを指さしながら、

 

「なまじ学ぶと、ココで考えるようになってしまいがちです。この本堂の壁に、『不生』という墨文字の額がありますね。ふしょう、と読みます。ごく簡単に言えば、あなたそのものが仏だから生まれたままの姿でいい、との意。赤ん坊に立ち返ったら、恐れもない、欲もない、それは幸せなことじゃないかと。

 

そこを忘れて、自分というものを立ち上げたばかりに、あれが欲しい、これは嫌だ、となる。今日と明日とで、そんな教えの一部でもかじってみてください」

 

そこへ、ふらりと1匹の黒猫が現れ、庵主さんの膝へ。

 

「この織部は、座禅などしていると、『しっかりやってるか?』と覗きに来ますが、知らん顔しといてください(笑)。もう1匹の白ちゃんも夕方には帰ってきます」

 

この2匹の寺猫が登場する同寺のX(旧ツイッター)も大人気だ。

 

「先日は、夫のDVに苦しむ女性がやってきて、私と話したあと、しばらく縁側で織部と日なたぼっこをして、『また報告に来ます』と言って戻られました」

 

山門は朝4時から開かれ、電話相談も無料で受け付けるなど、いまや不徹寺は女性たちにとって現代の駆け込み寺であり、「人生リセット寺」の別称もあるほど。

 

参加者らの許しを得て修行体験に同行した。

 

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